
最大トルク16.3kgm、1983年のブルドッグとスーパーワンで完全一致。偶然ではなく、ホンダが43年かけて繋いだホットハッチの遺伝子です。
「EVは走りの個性を殺した」。そう思い込んでいませんか。
ホンダが2026年5月29日に発売する小型EV「Super-ONE(スーパーワン)」に、純正アクセサリー「BULLDOG STYLE」と、無限によるカスタムパーツが相次いで公開されました。オマージュ元は1983年登場の名車「シティ・ターボII」、通称ブルドッグ。そして新旧2台の最大トルクは、どちらも16.3kgm(160Nm)で完全に一致しています。
当時のブルドッグのワンメイクレース車両を製作していたのは無限でした。43年の時を経て、令和のブルドッグにも無限が再び牙を立てる。ホンダアクセスの「BULLDOG WITH ELECTRIC POWER」デカールは、当時の「TURBO II WITH INTERCOOLER」を書体まで忠実に再現した1枚です。
この記事では、20年以上自動車業界を取材してきたカーソムリエの視点から、令和ブルドッグに込められた数値と人脈のDNA継承、そしてホンダがなぜ43年前の自分を模写したのかを検証します。
📌 令和ブルドッグの正体。ホンダアクセスと無限が並走する2段構えカスタム体制

発売前のモデルに純正とワークスチューナーの両方が並走してカスタムを出す。この構造自体が、1983年ブルドッグの時代から受け継がれた遊びの作法です。
ホンダアクセス「BULLDOG STYLE」。デカール書体まで再現した遊び心
ホンダアクセスは2026年4月10日、幕張メッセで開催されたオートモビルカウンシル2026の会場で、スーパーワン用純正アクセサリー「BULLDOG STYLE(ブルドッグスタイル)」を正式公開しました。コンセプトは「REIWA BULLDOG(令和ブルドッグ)」です。
キーアイテムは、シティ・ターボIIの書体を忠実に再現した「デカール BULLDOG」。当時ドアに貼られていた「TURBO II WITH INTERCOOLER」の文字をオマージュし、現代版では「BULLDOG WITH ELECTRIC POWER」と表記しています。ターボ車だったブルドッグが、43年の時を経てEVパワーを纏ったことを1枚のデカールで宣言する仕立てです。
パッケージを構成するのは5アイテム。デカール BULLDOG、テールゲートスポイラー、15インチアルミホイール「ME-027」(ベルリナブラック)、ブラックエンブレム、そしてイエローとクリアの切り替えができるLEDフォグライト バイカラーです。イエローフォグは当時のシティ・ターボIIを思わせるヘリテージの要。EVであっても灯の色で時代を結ぶ発想に、ホンダアクセスの本気が滲みます。
無限「スポーツEV+ONE」。ブリスターフェンダーをさらに張り出させる攻めの思想
もう一方のカスタムは、無限ブランドを展開するM-TECが2026年4月16日に先行公開した「スポーツEV+ONE」コンセプト。東京オートサロン2026でコンセプト展示されたものをベースに、市販向けパーツとして開発中の内容が明かされました。
注目は、スーパーワン自体が既に専用シャシーでワイドトレッド化されているにもかかわらず、無限はそのボディをさらにワイド化する前後オーバーフェンダーを装着してきた点です。フロント・リアのオーバーフェンダー、無限ロゴを大胆にあしらったフロントアンダースポイラー、サイドガーニッシュ、リアアンダースポイラー、さらにダクト付きのエアロボンネットまで用意されています。
機能面ではドライカーボン製の大型テールゲートスポイラーやカーボンドアミラーカバーも開発中。EVでも発熱を意識したダクト付きボンネットは「小粒なスポーティEVを本気でチューニングする」という宣言にほかなりません。純正が「ヘリテージの再現」を担うのに対し、無限は「現代的なスパルタン化」で攻める。2社の役割分担は、そのままブルドッグ時代の純正と無限の関係を反復しているように見えます。
日本随一のEV実践派ジャーナリスト・国沢光宏氏が「即決」した車種の実力
象徴的な出来事がありました。BYDに続いてスーパーワンを購入したと明らかにしたのは、日本随一のEV実践派として知られるモータージャーナリストの国沢光宏氏です。ベストカーWeb(2026年4月18日配信)によれば、氏は試乗後「冷やかしで見積もりを取りに行ったつもり」が、AピラーまでBOSEスピーカーが奢られた内装に驚き、シートまでシティ・ターボIIをオマージュした作り込みに唸り、そのままハンコを押して帰ってきたといいます。
プロの評価として象徴的だったのが、BOSEサウンドシステムの音質です。ノートオーラのBOSEが低音を抑えた仕上げなのに対し、スーパーワンのBOSEは400万円級のクルマを凌ぐ音圧を実現。「30万円のオプションだって納得するレベル」と氏は評しています。純正アクセサリーと車体の装備が両面で「遊び心」に振り切っているのは、令和ブルドッグの本気度を示す証拠です。

📌 43年越しの遺伝子継承。16.3kgm完全一致と無限の再連携が示す構造

スペック表の数字を並べたとき、こんなに綺麗に揃うのは狙いがない限り起こりません。令和ブルドッグはホンダが意図して刻んだ43年の記念碑です。
スペック比較。最大トルク16.3kgm完全一致という「偶然ではあり得ない」一致
1983年に登場したシティ・ターボIIと、2026年発売のスーパーワン。駆動方式もパワーユニットも根本から違うこの2台のスペックを突き合わせると、驚くべき一致が浮かび上がります。
最大トルクの16.3kgmが43年越しで一致しているのは、偶然ではあり得ません。当時のエンジン設計制約と、EVでモーター制御を任意に設定できる現代では、同じ数字に収める技術的な必然性は存在しないからです。つまりこれは、ホンダが狙って揃えた意匠と見るのが自然です。
最高出力の面でも、スーパーワンはBOOSTモード時に95psと、当時ブルドッグの110psに肉薄します。ベースのN-ONE e:が軽自動車自主規制の64psに抑えられているため、小型車化とBOOST解禁で43年前の到達点に迫る数字を取り戻してきた構造です。数値の到達点を揃えたのは「ホットハッチの像」を43年越しに再現するための布石にほかなりません。
スクランブルブーストの継承も同様です。当時は3,000rpm以下でアクセル全開にすると10秒間だけ過給圧が10%上がる機能。今回のスーパーワンは、ステアリング脇の専用スイッチで出力を64ps→95psに引き上げる「BOOSTモード」を搭載し、さらに擬似シフトフィールとアクティブサウンドまで連動させています。機能の中身はターボからモーター制御に変わっても、「日常のひと踏みで別の顔を見せる」という体験設計は完全に同じです。
無限の再連携が示す「DNA継承」の正体。43年前に誰が走らせていたか
ブルドッグには、ワンメイクレース「シティブルドッグレース」が存在しました。当時大きな話題を集めた参戦車両の一つが、玩具メーカー・タカラの「1/1タカラチョロQ号」です。そしてそのブルドッグレースカーを実際に製作していたのは無限でした。ベストカーの松田秀士氏が2026年2月26日号のコラムで明記しています。
この事実は、今回の「令和ブルドッグ」の構造を解く鍵になります。2026年4月、ホンダがスーパーワンを発売するにあたり、純正用品のホンダアクセスと、ワークスチューナーの無限が同時にカスタムを提案してきた。43年前にブルドッグレースカーを作った無限と、43年後にEVのブルドッグをチューンする無限は、ホンダにとって同じ役割を担うパートナーなのです。
さらに注目すべきは、スーパーワンのプロトタイプが2025年1月の東京オートサロン2026で、無限の手によって世界初公開されていた事実。一般ユーザーが車両を目にするより先に、カスタム版が姿を現すという順序は極めて異例で、これはホンダと無限が開発段階から深く共有していたことを示唆します。ブルドッグ時代と同じ関係性です。
「BULLDOG WITH ELECTRIC POWER」の命名哲学。ターボとEVを並列に並べる覚悟
ホンダアクセスの純正デカールは、当時の「TURBO II WITH INTERCOOLER」を書体ごと再現したうえで「BULLDOG WITH ELECTRIC POWER」と改変しています。一見すると小さな遊びですが、この命名には重たい含意が潜んでいます。
「TURBO II WITH INTERCOOLER」は、1.2Lクラスで初のインタークーラーを装備した技術的な誇りの宣言でした。それに並ぶ表現として選ばれた「WITH ELECTRIC POWER」は、EVを過渡期の妥協ではなく当時のインタークーラー技術と同格の進化として並置する宣言です。ガソリンかEVかの二項対立ではなく、「ホットハッチの魂を時代の技術で実装する」というメッセージに昇華されています。イエローフォグライトがヘリテージ装備として残されたのも、この思想の延長線上にあります。
たかまさはこう見ている

数字と人脈がここまで綺麗に揃ったとき、クルマは単なる商品を超えてメッセージになります。令和ブルドッグはホンダの宣言そのものです。
スーパーワンを取材現場で知り、令和ブルドッグ発表を追いかけてきて強く感じたのは、ホンダがソニー・ホンダモビリティの事業縮小や北米0シリーズの生産中止など、大きな構造転換に直面する2026年に、このタイミングで43年前の自分を呼び戻してきたことの意味です。AFEELAが挑んだ高価格帯のテクノロジーEVとは真逆の方向、つまり小型・低価格・遊びに全振りしたコンパクトEVスポーツで、ホンダらしさを再定義しようとしているように見えます。
私はこれまで11回クルマを買い替えてきましたが、その中で「乗るたびに前向きになる車種」は数えるほどしかありません。シティ・ターボIIを所有していた読者の方々は、今回のスーパーワンを試乗して、何かを思い出すはずです。私自身、20年以上の取材経験で一次情報を積み重ねてきましたが、メーカーがこれほど丁寧に自社の遺伝子を掘り起こして再実装した例はほとんど記憶にありません。無限のオーバーフェンダー、ホンダアクセスのイエローフォグ、BOSEのAピラースピーカー。全てが「EVでも遊べることを証明する」ための装備です。
EVはエンジンがない分だけ個性がないという反論を、私は何度も聞いてきました。しかし令和ブルドッグは、モーターであってもブリスターフェンダー、BOOSTスイッチ、擬似シフトフィールで「ホットハッチの所作」を残すことに成功しました。クルマはエンジンで語るのではなく、記憶と体験で語るものです。ホンダが43年前の自分を再生産したのは、EVに魂を取り戻すための遠回りで確かな一歩であり、その宣言は数字で証明されている以上、もはや感情論では覆せません。

