
メルセデス・ベンツ日本が9月15日、新型Sクラスに直6ガソリンのS500を追加しました。これで全4仕様の価格がそろいました。価格表を縦に読むと、車体を伸ばす代金がV8エンジンの代金の約1.9倍という、意外な値付けが見えてきます。
2026年9月15日に追加発売された新型Sクラスの「S 500 4MATIC long(ISG)」(写真は欧州仕様車)。改良型の直列6気筒3.0Lガソリンエンジン「M 256 Evo」を搭載し、定格トルクは最大600N・mに向上しました。従来比約20%拡大したラジエターグリルと、Sクラス初のイルミネーテッドラジエターグリルが新型の目印です。
出典:メルセデス・ベンツ日本 Newsroom『「S 500 4MATIC (ISG)」、「S 500 4MATIC long (ISG)」を追加』(2026年9月15日)
「高級車の値段は、エンジンの大きさで決まる」と思い込んでいませんか。
メルセデス・ベンツ日本は2026年9月15日、6月に大幅改良した新型Sクラスに直列6気筒ガソリンの「S 500 4MATIC(ISG)」1,708万円と、そのロングボディ版「S 500 4MATIC long(ISG)」2,136万円を追加し、同日発売しました。これでSクラスはディーゼルのS450d、直6ガソリンのS500とS500ロング、V8のS580ロングという全4仕様の布陣がそろいました。
公式リリースの価格表を並べると、S500からS500ロングへ車体を伸ばす差額は428万円。一方、S500ロングからV8のS580ロングへの差額は229万円にとどまります。ホイールベースの延長代が、エンジンを直6からV8へ格上げする代金の約1.9倍という構図です。同日発売のマイバッハSクラスまで含めると、価格の階段は1,598万円から3,934万円まで伸びています。
本記事では、新型Sクラス全4仕様とマイバッハ2仕様の価格構造、改良前からの値上げ幅、ディーゼルとガソリンの110万円差を燃料費で回収できるかを整理し、最後にFP(ファイナンシャルプランナー)の視点から、どの仕様が合理的かを検証します。

📌 新型Sクラス価格表の縦読み、S500追加で見えたロング化428万円とV8化229万円の逆転

6月の改良発表時点ではS450dとS580ロングの2仕様だけで、価格の段差が読めませんでした。S500が標準とロングの両方で加わったことで、ようやく「何にいくら払うのか」を同じエンジンで比べられるようになりました。
1,598万〜2,365万円・全4仕様の階段を分解する
メルセデス・ベンツ日本の公式リリースによれば、新型Sクラスの国内ラインアップは4仕様です。3.0L直列6気筒ディーゼルのS 450 d 4MATIC(ISG)が1,598万円、3.0L直列6気筒ガソリンのS 500 4MATIC(ISG)が1,708万円、同じエンジンでロングボディのS 500 4MATIC long(ISG)が2,136万円、4.0L V型8気筒のS 580 4MATIC long(ISG)が2,365万円です。いずれも消費税込みのメーカー希望小売価格で、ステアリングは全車左右から選べます。
段差を順に計算すると、ディーゼルからガソリン直6へが+110万円、標準ボディからロングボディへが+428万円、直6からV8へが+229万円です。エンジンを替える2つの段差を足しても339万円で、車体を伸ばす1つの段差428万円に届きません。カーソムリエとして諸元表を読む立場から言えば、Sクラスの価格を最も大きく動かしているのは、パワートレインではなくボディの長さだということになります。
改良前比+23万〜+53万円、値上げ率はわずか1.5〜2.5%
改良前のモデル(MP202502・2025年3月発売)の価格と比べると、上昇幅はS450dが+23万円、S500が+42万円、S500ロングが+46万円、S580ロングが+53万円です。率に直すと1.5〜2.5%の値上げにとどまります。
6月の改良は、メルセデスが「過去最大規模」とうたう内容で、車両全体の50%以上、約2,700点の部品が新規開発または再設計されました。第4世代MBUXと自社開発OS「MB.OS」、14.4インチと12.3インチを並べた「MBUXスーパースクリーン」、10台の外部カメラ(発表日時点で日本仕様は2台未使用)を使う運転支援「MB.DRIVE」などが加わっています。部品の半分以上を入れ替えた改良で値上げが2%前後なら、価格の上がり方は中身の変化に比べて控えめだと言えます。
ただし、長い目で見ると話は変わります。2021年1月に現行W223型が日本導入されたときの価格は、S500が1,375万円、S500ロングが1,724万円でした。約5年半でS500は+333万円(約24%)、S500ロングは+412万円(約24%)上がっています。今回の改良での値上げは小さくても、フラッグシップの価格水準そのものは、この5年で4分の1ほど上がったことになります。
新型で消えた「V8の標準ボディ」と「ディーゼルのロング」
価格表で見落とせないのは、並んでいない仕様です。改良前にはV8の標準ボディ「S580 4MATIC」(1,898万円)がありましたが、新型のラインアップにはありません。V8を選ぶなら、ロングボディのS580ロング(2,365万円)一択です。
同じように、ディーゼルは標準ボディのS450dだけで、ロングの設定はありません。つまり新型では、後席の広いロングボディを選んだ時点で、ガソリンの直6かV8に限られ、入口は2,136万円になります。ディーゼルの経済性とロングの後席を両方取る選択肢は、今のカタログにはありません。
公式リリースを読むと、標準ボディとロングの差は長さだけではありません。ブランドロゴプロジェクターライトと、前席のヒーテッドシートベルトは、標準ボディのS500ではオプション扱いです。さらに、路面に応じて車体の姿勢を制御する「E-ACTIVE BODY CONTROL」と、助手席側後席のクッションエアバッグは、S500ではロングだけにオプションで用意されています。428万円には、こうした装備と選択肢の差も含まれていると読むのが妥当です。

📌 マイバッハまで含めた1,598万〜3,934万円の6段階と、ディーゼル110万円差の回収年数

同じ日に、Sクラスのロングをベースにしたマイバッハの改良型も発売されました。価格の階段を最上段まで伸ばすと、「後席に払う値段」の傾向がさらにはっきりします。
同じ9月15日に発売された改良型メルセデス・マイバッハS 680。Sクラスのロングホイールベースモデルをベースとするラグジュアリーサルーンで、6.0L V12ツインターボ(612PS・900N・m)を継続搭載します。約2,700点の部品を新規開発または再設計した、マイバッハ史上最大規模の改良です。
3,934万円から1,598万円へ、6段階のカウントダウン
改良型マイバッハSクラスは、V8の「マイバッハS580(ISG)」が3,415万円、V12の「マイバッハS680」が3,934万円です。V8の新エンジン「M177 EVO」は537PS・750N・m、V12の「M279」は612PS・900N・mを発生します。Sクラスの4仕様と並べると、価格は上から次のように下がっていきます。
3,934万円(マイバッハS680)→ 3,415万円(マイバッハS580)→ 2,365万円(S580ロング)→ 2,136万円(S500ロング)→ 1,708万円(S500)→ 1,598万円(S450d)
段差を見ると、V8のS580ロングからマイバッハS580への差は1,050万円で、階段の中で最大です。どちらも4.0L V8を積むので、この差額は主にマイバッハ専用の後席空間と仕立てへの対価です。V8からV12への格上げは519万円で、その約半分にとどまります。ここでも、エンジンの格上げより、後席の格上げのほうに大きな値札が付いています。
S450dとS500の110万円差、燃料費で埋まるのは約23年後
標準ボディ同士で迷う人にとっての分かれ道は、ディーゼルのS450d(1,598万円)とガソリンのS500(1,708万円)です。まず価格差は110万円で、改良前の91万円(1,575万円対1,666万円)から19万円広がりました。
燃料費を比べます。資源エネルギー庁の石油製品価格調査では、2026年9月7日時点の全国平均は軽油159.5円/L、ハイオク180.9円/Lです。新型の日本仕様の燃費はリリースに記載がないため、ここでは仮にS450dを12km/L、S500を10km/Lと置きます。年間1万km走ると、燃料費はS450dが約13.3万円、S500が約18.1万円で、差は年約4.8万円です。110万円の価格差をこの差で割ると、回収には約23年かかります。年2万km走る人でも約11.5年です。
ここで注意したいのは、比べる向きです。ディーゼルは「高いけれど燃料代で元が取れる」車ではありません。新型Sクラスでは、ディーゼルのほうが車両価格も燃料代も安いのです。自動車税も、どちらも排気量2.5L超3.0L以下の区分なので同額です。S500を選ぶ理由は経済性ではなく、ガソリン直6の静かさや、600N・mへ高められたトルクの滑らかさ、そしてロングボディを選べることにあります。
📌 たかまさはこう見ている

20年あまり新車発表を取材してきて、Sクラスの価格表はいつも「運転する人」と「乗せてもらう人」のどちらに向けた車かを映す鏡だと感じています。今回の新型は、その鏡がはっきり後席側を向きました。
なぜロング化が、V8化より高く値付けされるのか。私は、日本のSクラスの主な使われ方が関係していると見ています。法人の役員車や送迎用では、選ぶ基準はエンジンの気筒数ではなく、後席の足元の広さと装備です。メーカーはその需要に合わせて、ロングにE-ACTIVE BODY CONTROLや後席用エアバッグの選択肢を集め、V8は標準ボディから外しました。エンジンは選択肢を絞り、後席は選択肢を広げる。新型の値付けは、その方針を数字で示したものです。
FP視点で見ると、判断はシンプルです。自分で運転し、コストを重視するなら、車両価格も燃料代も安いS450dが合理的です。燃料費で110万円差を回収するには約23年かかるため、「長く乗れば元が取れる」という理屈はS500には当てはまりません。一方、後席に人を乗せることが主な目的なら、比べるべきはS500ロングとS580ロングの229万円差です。V8の余裕に229万円を払うか、S500ロングで浮いた分をオプションに回すかという選択になります。私自身、11台を買い替えてきて学んだのは、「自分がどの席に座る時間が長いか」を先に決めると、グレード選びの迷いが半分になるということです。1,000万円を超える車は、購入後の値落ち額も大きくなります。仕様を決める前に、残価設定ローンやリースの見積もりで、3年後・5年後の残価を仕様ごとに比べておくことをおすすめします。
1,598万円から3,934万円までの階段で、価格が大きく跳ねるのは、いつも後席が広くなる段でした。2,700点の部品を入れ替えた新型Sクラスで、最も高い値札が付いたのはエンジンでも画面でもなく、後ろの座席の足元です。高級車の価値は、運転する楽しさから、移動時間の過ごし方へと重心を移しつつあります。
🔍 この記事のファクトチェックについて
本記事に掲載した車両画像は、すべてメルセデス・ベンツ日本のニュースルーム(https://media.mercedes-benz.jp/)の公式プレスリリース『「S 500 4MATIC (ISG)」、「S 500 4MATIC long (ISG)」を追加』および『新型「メルセデス・マイバッハSクラス」を発売』(いずれも2026年9月15日)に掲載された報道用公式画像から引用しています。ヒーロー画像はS 500 4MATIC long(ISG)のエクステリア(欧州仕様車)、サブ画像はメルセデス・マイバッハS 680のエクステリアです。引用は著作権法第32条に基づき、報道目的での適正な範囲内で実施しています。
