
ベントレー初のEV「トルカル」の英国価格は17万3,300ポンド。ベンテイガより8,065ポンド安く、ブランドで一番安いクルマとして登場しました。超高級ブランドの電動化は、値上げではなく「入口を下げる」ことから始まっています。
2026年9月23日(英国現地時間)にロンドンで世界初公開された、ベントレー初の完全電気自動車「トルカル」。コンチネンタルGT、フライングスパー、ベンテイガに続くブランド第4のモデルラインで、全長約5mのアーバンラグジュアリーSUVとして位置付けられています。
出典:ベントレー モーターズ ジャパン『ベントレー初の完全電気自動車 ベントレー第4のモデル「トルカル」登場』(2026年9月24日)
「ベントレーのEVなら、さぞ高いはずだ」。そう思い込んでいませんか。
英国ベントレーは2026年9月23日、ブランド初の完全電気自動車「トルカル」をロンドンで世界初公開し、翌24日にはベントレー モーターズ ジャパンも日本向けにリリースを出しました。英国価格は標準の「コア」が17万3,300ポンド、高性能版「S」が19万9,300ポンド。コアはベンテイガ(18万1,365ポンド)を8,065ポンド下回り、ベントレー全4車種の中で最も安い入口モデルになりました。
それでいて性能は控えめではありません。Sは最高出力888PS・0-100km/h加速2.9秒でベントレー史上最強、ネット容量113kWhの電池でWLTPモード最大約600kmを走ります。同じく初のEVを出したフェラーリ・ルーチェが欧州で55万ユーロと報じられているのに対し、トルカルはその4割に届きません。
この記事では、英国価格表から見えるベントレーの値付けの意図、ポンド直訳では見えない日本価格の現実的なレンジ、そしてFP(ファイナンシャルプランナー)の視点から日本で保有する際の税負担の考え方を検証します。

📌 トルカルの価格表を読む、ベントレー4車種で最安の17.3万ポンドとルーチェの半額以下という値付け

ベントレーの英国価格を安い順に並べると、先頭に来るのは100年を超える歴史で初めてのEVです。性能は最強、値段は最安。この組み合わせこそが、トルカルの設計思想そのものだと読み取れます。
英国価格で見るベントレー4車種の階段、EVが一番下の段に座った
欧州メディアEuronewsが報じた英国の開始価格を並べると、ベントレーの価格ラダーは次のようになります。トルカル(コア)17万3,300ポンド、ベンテイガ18万1,365ポンド、フライングスパー20万7,120ポンド、コンチネンタルGT23万9,320ポンド。トルカルは既存3車種のどれよりも安く、SUVの主力ベンテイガとの差は8,065ポンド、率にして4.4%です。
高性能版のトルカルSは19万9,300ポンドで、コアとの差は2万6,000ポンド。それでもフライングスパーより安い位置に収まっています。ブランド最強の888PSを積んだ仕様ですら、4ドアセダンの入口価格を下回るわけです。自動車の世界ではこれまで「EVは同クラスの内燃機関車より高い」が常識でしたが、トルカルはその常識を超高級帯で逆転させました。
ルーチェの37%、同じ「初のEV」で頂点と入口に分かれた2社の戦略
比較対象として分かりやすいのが、同じく初の量産EVを送り出したフェラーリです。シンガポールのCNAが英フィナンシャル・タイムズを引いて報じたところでは、ルーチェの欧州価格は55万ユーロ。トルカルのユーロ換算額は約20万2,000ユーロですから、トルカルはルーチェの約37%、半額以下です。フェラーリが初のEVをブランドの頂点に置いたのに対し、ベントレーは同じ「初のEV」を入口に置きました。
この違いは、ブランドが抱える課題の違いを映しています。Euronewsによれば、ベントレーの2026年上半期の販売は4,200台で前年同期比13.6%減。同報道によると、ベントレーは全面電動化の目標を2030年から2035年へ先送りしています。一方で、CNAの報道ではフランク・シュテッフェン・ヴァリザーCEOが、トルカルへの初期の関心のおよそ半分が新規顧客から寄せられたと説明し、40代の若い世代へ顧客層を広げたい考えを示しました。販売が減る局面で、EVを「新しい顧客を連れてくる入口」として使うというのが、今回の価格設計の核心だと読めます。
ポンド直訳3,725万円では読めない、既存3車種の日英価格比で見る日本価格2,400万〜2,600万円
日本の読者にとって気になるのは国内価格ですが、ベントレー モーターズ ジャパンのリリースには日本価格も導入時期も記載がありません。国内メディアではポンドをそのまま円に換算した「約3,650万円から」といった数字も見られます。しかし、この読み方は実態から大きくずれる可能性があります。2026年8月の平均為替レート1ポンド=214.93円で直訳すると、コアは約3,725万円です。
そこで、すでに日英両方で価格が出ている既存車種の比率を当てはめます。日本のベンテイガV8は2,713万円(2025年6月時点のカタログ値)、英国のベンテイガ開始価格は18万1,365ポンドで、日本価格は1ポンドあたり約149.6円相当。同様にフライングスパーは約142.4円、コンチネンタルGTは約140.7円相当です。英国価格には20%の付加価値税が含まれることなどから、日本の値付けは直訳より3割ほど低い水準に収まっているのが実態です。この比率をトルカルに当てはめると、コアは約2,438万〜2,592万円、Sは約2,804万〜2,981万円。ベンテイガV8の2,713万円を下回る水準です。
もちろん、日本導入時の為替水準や仕様構成、充電規格への対応などで実際の価格は変わります。ただ、ポンド直訳の約3,725万円と、日英価格比による試算の上限約2,592万円の差は約1,100万円。日本価格が発表されるまでは、「3,000万円台後半のEV」という先入観で判断しないことをお勧めします。

📌 821PS/888PS・113kWh・航続600km、ベントレー史上最強となったトルカルの中身

入口価格のモデルに、ブランド最強の動力性能を与える。安さを「格下げ」に見せないための仕掛けが、諸元表の随所に組み込まれています。ベンテイガ スピードと並べると、その意図がよく分かります。
ベントレー モーターズ ジャパンが報道用に公開したトルカルの公式画像。デザインチームは「プロポーション」「グラフィック」「サーフェス」「ディテール」の4段階で造形を組み立て、ロングホイールベースと短いオーバーハング、イルミネーテッド・ダイヤモンドグリルで、EVでもひと目でベントレーと分かる姿を目指しました。
出典:ベントレー モーターズ ジャパン『ベントレー初の完全電気自動車 ベントレー第4のモデル「トルカル」登場』(2026年9月24日)
コア821PS・S888PS、ベンテイガ スピードの650PSを大きく上回る
ベントレー モーターズ ジャパンのリリースによれば、トルカルは前後に永久磁石同期モーターを1基ずつ備える4輪駆動です。コアは最高出力821PS・最大トルク1,194N・m、0-100km/h加速3.4秒、最高速度250km/h。Sはローンチコントロール作動時に888PS・1,350N・mを発生し、0-100km/h加速2.9秒、最高速度260km/hに達します。
比較のため、2026年5月に日本導入された新型ベンテイガ スピードを見ると、4.0L V8ツインターボで650PS、0-100km/h加速3.6秒、最高速度310km/hです。カーソムリエの目線で数字を並べると、入口価格のトルカル(コア)ですら、出力で171PS、加速で0.2秒、ブランドのSUV最上位を上回っています。最高速度だけはV8のベンテイガ スピードが上ですが、日常と高速道路で体感する力強さは、トルカルが明確に上位にあると言えます。
113kWh・800V電池とフルアクティブサスペンション、快適性の作り方
電池は192個のリチウムイオン・ポーチセルを直列に接続した公称800Vの構成で、ネット容量は113kWh。航続距離はWLTPモードで最大約600km、電池の保証は約16万kmまたは10年です。急速充電は欧州の400kW級設備を使った場合、10%から80%まで20分弱、約7分で約161km分を追加できるとしています。なお、日本仕様の充電規格や国内での充電性能はリリースで言及されていません。
乗り心地の面では、ベントレーとして初めてフルアクティブ・サスペンションを採用しました。各ダンパーが路面入力に応じて個別に車体を上下させる仕組みで、アンチロールバーを持ちません。電子制御式のオールホイールステアリングも標準で、後輪を最大5度切ることで、全長約5mの車体ながら最小回転直径は11.1mに収まっています。ブレーキはフロント420mm・リア370mmのスチール製が標準で、カーボンセラミック(440mm/410mm)も選べます。
メリノウールとウォールナット、内装で「入口モデルの格」を守る
内装は、価格が最安でも格は落とさないというベントレーの意思が最も強く表れた部分です。英国の織物メーカー、フォックス・ブラザーズと共同で、世界初の100%メリノウールの自動車用ファブリックを開発しました。さらに、ウォールナットの端材とクラフトペーパーを最大1,000層圧着して1mm未満にスライスしたヴェニア、3方向のブラッシュ加工を施したアルミ加飾も用意されます。
オーディオは標準で620W・16スピーカー、Naimと共同開発した1,780W・28スピーカー(Dolby Atmos対応)も選べます。曲面OLEDスクリーン、顔認証、AR表示のヘッドアップディスプレイ、調光式ガラスルーフまで揃い、後席には3人掛けシートの電動格納機構を初採用しました。生産は英国クルー工場で、同工場には約3億5,000万ポンドが投じられ、生産開始は2027年第2四半期、英国での初回納車は2027年夏と報じられています。
📌 たかまさはこう見ている

フェラーリは初のEVを約55万ユーロの頂点に置き、ベントレーは初のEVを最安の入口に置きました。同じ電動化でも、ブランドが守りたいものと取りに行きたいものが、価格表の位置にそのまま表れています。
なぜベントレーはEVを最安に置けたのか。背景には、上半期の販売が13.6%減という逆風の中で、既存顧客の買い替えを待つだけでは台数を維持できないという事情があります。内燃機関のV8やW12で築いたブランドは、既存顧客には強く響く一方、次の世代の富裕層には届きにくい。そこで、ブランド最強の性能と最上級の素材を載せたEVを、最も手の届きやすい価格で差し出す。「安いから格下」と見られないよう性能で格を担保し、価格で新しい顧客の扉を開けるという、極めて計算された値付けだと私は見ています。
FP視点で日本での保有を考えます。まず税金です。自動車税(種別割)はEVが最も低い年2万5,000円の区分で、4.0L V8のベンテイガ(年6万5,000円)より毎年4万円、10年で40万円少なくなります。ただし2,000万円を超える車両価格の中では誤差の範囲です。補助金については、国のCEV補助金は税抜840万円以上の高額車両に係数0.8を掛ける仕組みで、仮に対象となっても上限130万円がそのまま出るわけではありません。さらに政府・与党は2028年5月から、EVとPHVの重量税に特例加算を設ける方針を示しています(新車登録から3年間は対象外、金額は未確定)。税と補助金の差は小さく、勝負を決めるのは日本価格そのものと、5年後にいくらで売れるかです。私自身、何台も乗り継ぐ中で、初物の高額車ほど手放すときの値落ちが読みにくいことを実感してきました。
では、どう判断すべきか。ベントレーを検討している方は、日本価格の発表を待ってからベンテイガV8との実額差を確認するのが得策です。試算どおり2,400万〜2,600万円台に収まれば、トルカルはベンテイガより安く、しかも速い選択肢になります。一方、自宅に高出力の充電設備を用意できない方や、5年以内の買い替えを前提にする方は、リセール実績のあるベンテイガを軸に考えるほうが堅実でしょう。いずれにしても、ポンドの直訳で「高すぎる」と見送るのは早計です。高級車の世界でも、電動化はもはや値上げの口実ではなく、新しい顧客を迎えるための値下げの手段になったのです。
🔍 この記事のファクトチェックについて
本記事に掲載した車両画像は、すべてベントレー モーターズ ジャパンがPR TIMES(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000300.000082456.html)で配信した公式プレスリリース『ベントレー初の完全電気自動車 ベントレー第4のモデル「トルカル」登場』(2026年9月24日)に掲載された報道用公式画像から引用しています。著作権はベントレー モーターズに帰属します。引用は著作権法第32条に基づき、報道目的での適正な範囲内で実施しています。
