
「AMGの魂はV8の咆哮にある」。長くそう信じてきました。その常識を、AMG自身が書き換えてきました。新型GT 4ドアクーペは内燃機関を一切持たない完全EV。それでいて1169ps・0-100km/h2.1秒という暴力的な数字を、量産EV初のアキシャルフラックスモーター3基で叩き出します。何が起きたのか、順に解きます。
メルセデスAMGが2026年5月20日に世界初公開した2代目「Mercedes-AMG GT 4ドアクーペ(型式C590)」。専用EVプラットフォーム「AMG.EA」を初採用し、量産EVとして初めてアキシャルフラックスモーターを3基搭載。最上位GT 63はピーク860kW(1169ps)を発生します。
「AMGの魂は、ハンドメイドのV8にある」。そう信じてきた人ほど、今回の発表に動揺したはずです。
メルセデスAMGは2026年5月20日、2代目となる新型「Mercedes-AMG GT 4ドアクーペ(型式C590)」を世界初公開しました。最大の衝撃は、内燃機関を一切持たない完全EV専用モデルとして生まれ変わった点です。AMG専用の電動アーキテクチャー「AMG.EA」を初採用し、量産EVとして世界初のアキシャルフラックスモーターを3基搭載。最上位のGT 63はローンチコントロール時のピークで860kW(1169ps)を発生し、0-100km/h加速2.1秒、0-200km/h加速6.4秒、最高速300km/h(オプションのドライバーズパッケージ装着時)に達します。下位のGT 55でも600kW(816ps)を確保します。
動力源は容量106kWhの専用バッテリーで、F1とハイパーカー「AMG ONE」の知見を投入。一充電航続はWLTPで最大700km、急速充電は最大600kWに対応し、わずか10分で約460km分、残量10→80%を約11分で回復します。生産は2026年夏からドイツ・ジンデルフィンゲン工場で始まり、欧州では数日内に受注が開始される見込みです。
この記事では、3基のアキシャルフラックスモーターとAMG.EAの中身、GT 63/GT 55のグレード差、そして「EVなのにあえてV8サウンドと変速ショックを再現する」AMGFORCE S+の思想までを、車ソムリエの目線で検証します。最後に、先代との価格・コストの読みをFP視点で軽く添えます。

📌 新型AMG GT 4ドアクーペのパワートレインと走行スペックの正体

新型で注目すべきは1169psという最高値だけではありません。「同じ性能を何度も連続で出し続けられる」連続出力の高さこそ、AMGがアキシャルフラックスを選んだ本当の理由です。サーキットを何周しても垂れない。内燃のV8が苦手だった領域を、電動で解こうとしています。
量産EV初・3基のアキシャルフラックスモーターとAMG.EA
新型の心臓は、3基のアキシャルフラックスモーター(軸方向磁束モーター)です。一般的なEVのラジアルフラックスモーターと比べ、AMGは「出力密度が約3倍、重量が約3分の2、体積が約3分の1」と説明しており、薄く軽く高出力という特性を持ちます。開発元は英国のYASA社で、現在はメルセデス・ベンツの完全子会社です。量産車での採用は今回が世界初となります。
配置はフロントアクスルに1基、リアアクスルに2基。前後それぞれが「HP.EDU(ハイパフォーマンス・エレクトリック・ドライブユニット)」に統合され、リアユニットは2基のモーターとコンパクトな1段プラネタリーギアボックスを1つのハウジングに収めています。フロントモーターは常用ではなく、追加の駆動力やトラクションが必要なときだけ介入する「ブースター」として働き、前後を完全に分離した「AMGパフォーマンス4MATIC+」がトルク配分を自在に変化させます。基盤となるのはAMG専用設計の電動アーキテクチャー「AMG.EA」で、F1由来の800Vシステムを採用。本モデルがAMG.EAを使う量産第1号車となります。
GT 63=1169ps/GT 55=816ps・加速2.1秒の中身
ラインナップはGT 63 4MATIC+とGT 55 4MATIC+の2グレード。GT 63はAMGローンチコントロール使用時かつ充電80%時のピークで860kW(1169ps)を発生し、これは公道を走るAMGとして歴代最強です。0-100km/h加速は2.1秒、0-200km/h加速は6.4秒、最高速はオプションのドライバーズパッケージ装着時で300km/hに達します。グレード名の「63」にちなみ、サーマルディレーティング(熱だれ)なしで最大63秒間ピーク出力を維持でき、その後も継続的に高出力を出し続けられる設計が、内燃のV8にはない武器です。
GT 55も600kW(816ps)と強力で、価格はGT 63よりおよそ2万ユーロ低く設定される見込みです。なお、性能数値は現時点で暫定値であり、公的試験機関による確定値・EC型式認証は今後の取得となります。先代(X290型)の頂点だったV8プラグインハイブリッド「GT 63 S Eパフォーマンス」が843PS・最大トルク1400N・m級だったことを思えば、電動化で出力が一段跳ね上がったことがよく分かります。
106kWhバッテリーとF1由来の冷却・600kW充電
電源は容量106kWhの「AMGハイパフォーマンス・エレクトリック・バッテリー」。ハイパーカー「AMG ONE」とF1のパフォーマンス哲学を融合した専用開発品で、新開発の細長い円筒形セル(高さ105mm×直径26mm)を2660個搭載します。各セルの周囲を非導電性の冷却オイルが直接流れる「ダイレクト冷却」により、加減速を激しく繰り返してもセル温度を一定に保ち、連続出力を維持できる点が肝です。
航続はWLTPで最大700km。充電性能も突出しており、最大600kWの急速充電に対応し、わずか10分間で約460km分のエネルギーを補充、残量10→80%は約11分で完了します。一般的なメルセデスEVの急速充電が最大350kW級であることを踏まえると、桁違いの速さです。下のGRADE MATRIXで、GT 63とGT 55の主要数値を整理します。

📌 EVなのにV8の咆哮、AMGFORCE S+と装備・価格戦略

静かで速いだけのEVにしない。ここに今回の最大の個性があります。AMGはあえてV8の音と変速ショックを電子的に再現し、五感を刺激しにきました。賛否はあるでしょうが、私は「内燃の情緒をどう残すか」というAMGの答えとして筋が通っていると見ています。
ドライバー重視のコックピット。10.2インチのメーターと14.0インチのマルチメディアディスプレイをシームレスなガラス面に統合し、新世代MBUXには対話型AI(ChatGPT・Geminiなど)を組み込む。AMGFORCE S+選択時にはトリプルメーターやインパネのイルミネーションが青から紫へと変化します。
なぜEVがV8の咆哮を響かせるのか・AMGFORCE S+の没入演出
専用の「AMGFORCE S+」モードを選ぶと、1600種類以上のサウンドファイルをリアルタイムに解釈した本格的なAMG V8サウンドが車内に響きます。さらに、模擬的なシフトチェンジによって駆動力をあえて一瞬途切れさせる「変速ショック」を再現し、加速のたびに体が押される感覚や、シートベルトの自動締め付けまでを連動させます。乗降時や起動時には専用のサウンドも用意され、聴覚・触覚・視覚を総動員した没入体験を作り込んでいます。EVの最大の弱点とされる「無機質さ」を、AMGは技術で塗り替えにきたわけです。
シャシー・空力・コックピットのAMG流作り込み
シャシーには、セミアクティブ・ロールスタビライザーを備える「AMG ACTIVE RIDE CONTROL」エアサスペンションを標準装備し、長距離快適性とコーナリング性能を両立。空力面では、メルセデス・ベンツグループ初となるホイールアーチクーラーや、電子制御の縦型ルーバー「AEROKINETICS Airpanel」、アンダーボディのアクティブなベンチュリフロープレート、伸縮式リアスポイラーを採用し、走行状況に応じて瞬時にダウンフォースと空気抵抗を最適化します。空気抵抗係数Cd0.22という数値が、その作り込みを物語ります。
インテリアは10.2インチメーターと14.0インチマルチメディアを統合したドライバー重視の設計。新世代MBUXには対話型AIが組み込まれ、サーキット走行向けの「AMG TRACK PACE」は走行データを毎秒10回記録し、拡張現実(AR)で理想のレコードラインをディスプレイに投影します。生産はジンデルフィンゲン工場のHall 32(AMG.EA対応に改修)が担い、心臓部のアキシャルフラックスモーターはベルリンのマリエンフェルデ工場で製造されます。
価格・受注・日本導入の見通し
欧州では数日内に受注が開始される見込みで、価格は「同等の従来モデルに準じる」とされています。先代(X290型)の欧州価格はGT 63クラスでおよそ17.9万ユーロ、GT 43クラスで約15.9万ユーロだったため、新型もこの近辺がベースになると見られます。一方、日本市場での価格・導入時期は本稿執筆時点(2026年5月22日)で未発表です。先代の国内トップグレード「GT 63 S Eパフォーマンス」が3270万円だったことを踏まえると、新型GT 63も3000万円台後半〜が一つの目安になりそうですが、確定情報を待つ必要があります。
競合は明確にポルシェ・タイカン ターボ/ターボGT。AMGは「単純な加速数値ではなく、その性能をいかに連続して発揮できるか」を訴求軸に据えており、サーキットでの連続周回性能で差別化を図る戦略です。なお、内燃エントリーだった「GT 43」に相当する電動下位グレードの設定有無は、現時点では公表されていません。
たかまさはこう見ている

AMGの動力源の変遷を並べると、今回の意味がよく見えます。ハンドメイドV8の時代から、V8プラグインハイブリッドの過渡期を経て、ついに自社開発のアキシャルフラックスEVへ。4ドアGTは、その大転換の先頭に立った最初の量産車です。
新型AMG GT 4ドアクーペが突きつけたのは、「ハイパフォーマンスブランドのアイデンティティは、動力源を変えても継承できるのか」という問いです。トヨタにGR、日産にNISMOがあるように、メルセデスにはAMGがある。その魂はこれまで「ハンドメイドのV8」と不可分でした。今回、AMGは内燃機関を完全に手放し、自社開発のアキシャルフラックスモーターと800Vバッテリーへ全面移行しました。最も売れ筋で最も官能的だった4ドアGTを電動化の先頭に立てたのは、「電動でもAMGはAMGであり続ける」と証明するための、退路を断った選択だと私は見ています。
その上で巧みなのが、疑似V8サウンドと変速ショックという「あえての野蛮さ」です。技術的には、シングルスピードで滑らかに加速できるEVに、わざわざ変速の途切れを再現するのは非合理に見えます。しかしAMGは、加速のたびに体を押す感覚や音の高ぶりこそがブランドの体験価値だと理解しています。1169psという最高出力よりも、「63秒間ピークを出し続けられる」連続出力性能を前面に出している点も同じ思想で、サーキットで何周しても垂れないという内燃時代の弱点克服を、電動の強みとして打ち出しています。
11台の自家用車を乗り継いできた経験とFP視点で価格面を検証すると、判断軸は「車両価格の高さ」と「電動ゆえの維持費の軽さ」のせめぎ合いになります。先代のV8 PHEV「GT 63 S Eパフォーマンス」が国内3270万円だったことから、新型GT 63も3000万円台後半が一つの目安。EV化で自動車税・重量税の優遇や電費メリットは効きますが、この価格帯では維持費差より「資産価値とブランド体験」が選択の主軸になります。日本価格と導入時期は未発表のため、確定情報が出てから改めてFP視点で総コストを検証します。新型AMG GT 4ドアは、内燃の情緒を電動の頂点で再構築する一台だ。「速いだけのEV」への静かな反論として、これからのハイパフォーマンスEVを測る物差しになるはずです。

