
20台限定の記念車が、ラインアップ最上級グレードより762万円も安い。レンジローバースポーツ2027年モデルには、価格表を眺めるだけでは気づけない逆転が隠れています。20年の取材歴で何度も見てきた「限定=最高額」の常識を、今回の14グレードは静かに覆しました。
2026年5月22日に受注を開始した「レンジローバースポーツ」2027年モデル。計14グレードを展開し、価格帯は1296万円から2586万円までと幅広い構成です。
出典:ジャガー・ランドローバー・ジャパン 公式サイト『RANGE ROVER SPORT モデル概要』(2026年5月)
ジャガー・ランドローバー・ジャパンは2026年5月22日、「レンジローバースポーツ」2027年モデルの受注を開始しました。今回の主役は、2005年のモデル誕生から20周年を記念して企画されたグローバル特別仕様車「レンジローバースポーツ トゥエンティエディション」です。世界限定500台のうち、日本にはわずか20台が割り当てられます。
限定車と聞けば、多くの方が「ラインアップで最も高価なモデル」を思い浮かべるはずです。フェラーリでもポルシェでも、記念モデルや限定車はしばしば通常ラインの天井を突き破る価格で登場します。ところが今回のトゥエンティエディションは1824万円。一方、通常ラインの最上級「SVカーボン P635」は2586万円です。限定車のほうが762万円も安いという、ねじれた価格構造になっています。
この記事では、まず2027年モデルで何が変わったのかを整理し、続いて14グレードの価格構造を解剖します。そのうえで、なぜ20台限定の記念車が最上級より安いのか、その理由と「割安なのはどちらか」を、1馬力あたりの単価まで踏み込んで検証します。新車を11台乗り継いできた立場として、価格表の数字の裏にある「価値の置きどころ」を読み解いていきます。
結論を先に言えば、トゥエンティエディションは「限定車だから高い」のではなく「人気装備を標準化したうえで価格を中位に抑えた一台」です。希少性と割安感が同居する、やや珍しいポジションにあります。詳しくは本文で見ていきましょう。

レンジローバースポーツ2027年モデル、何が変わったのか

まずは2027年モデルの全体像から。限定車だけでなく、通常グレードの装備見直しにも「買い時」を左右するポイントが含まれています。
受注開始と20周年記念トゥエンティエディションの概要
ジャガー・ランドローバー・ジャパン公式の発表によれば、レンジローバースポーツ2027年モデルの受注開始日は2026年5月22日です。現行の3代目(L461型)は2022年にデビューし、2024年モデルの段階で全グレードが電動化(マイルドハイブリッド以上)された経緯があります。今回はその年次改良にあたり、目玉として20周年記念の特別仕様車が加わりました。
トゥエンティエディションは世界限定500台、日本割当20台。搭載エンジンは4.4リッターV8ツインスクロールターボのマイルドハイブリッドで、最高出力530ps、最大トルク750Nmを発生します。価格は1824万円です。エクステリアカラーには、2004年に発表されたコンセプトカー「レンジストーマー」由来のオレンジをモチーフにした専用色「サンギネロオレンジ」を新開発し、ブランドの革新の歩みを表現したとしています。
カーソムリエとして装備表を読むと、この記念車の本質は「色」ではなく「標準装備の中身」にあります。専用バッジやイルミネーション機能付きメタルトレッドプレート、フォージドカーボンのインテリアフィニッシャーといった限定装備に加え、本来は高額オプションであるメリディアン 3Dサラウンドサウンドシステム、ブラックブレーキキャリパー、23インチ「スタイル5135」アロイホイール(スパークルシルバーフィニッシュ)までが標準で備わります。つまり「人気オプションを全部盛りにして固定価格にした」一台なのです。
専用色サンギネロオレンジと限定装備
サンギネロオレンジは、近年のレンジローバーが好む落ち着いた色調のなかでは異色の主張色です。フラッグシップSUVで派手なオレンジを選べる機会はそう多くありません。20台という希少性とあわせて、所有満足度を高く保ちやすい設計と言えます。記念車にありがちな「内外装の専用エンブレムだけ」という薄い差別化ではなく、走りと音響に関わる実装備まで踏み込んでいる点は、評価できるポイントです。
専用色「サンギネロオレンジ」をまとう「レンジローバースポーツ トゥエンティエディション」。メリディアン3Dサラウンドや23インチアロイなど、人気オプションを標準装備します。
出典:ジャガー・ランドローバー・ジャパン 公式サイト『RANGE ROVER SPORT TWENTY EDITION』(2026年5月)
2027年モデルの装備見直しと「実質値ごろ化」したグレード
限定車以外でも、通常グレードに見逃せない変更があります。これまで「SVカーボン」専用だったSVカーボンファイバーエクステリアパックやカーボンファイバーボンネットが、一段下の「SV」グレードでもオプションとして選べるようになりました。最上級専用だった軽量・意匠パーツが下位グレードに開放された格好で、上級志向のユーザーにとっては選択肢が広がります。
さらに注目したいのが「ダイナミックHSE」です。従来はオプション扱いだったブラックブレーキキャリパーとコンフィギュラブルキャビンライティングが、2027年モデルで標準装備に格上げされました。価格を据え置いたまま装備が増えれば、それは実質的な値ごろ化です。中核価格帯で「買い得感」が増したグレードと言えます。下のグラフで、主要グレードの価格レンジを視覚的に確認しておきましょう。

14グレードの価格構造と「762万円の逆説」

ここが今回いちばん面白いところです。限定車が最上級より安い理由を、馬力あたりの単価まで分解してみます。
パワートレインは4系統・計14グレード
2027年モデルのレンジローバースポーツは、4つのパワートレインで計14グレードを展開します。エントリーは3.0リッター直列6気筒ディーゼルのマイルドハイブリッド「D300」(300ps/650Nm)で、「S D300」が1296万円。ここから「ダイナミックSE D300」1337万円、「ダイナミックHSE D300」1454万円、「オートバイオグラフィー D300」1627万円と積み上がります。
3.0リッター直6ガソリンのマイルドハイブリッド「P400」(400ps/550Nm)は、「ダイナミックSE P400」1382万円、「オートバイオグラフィー P400」1671万円。プラグインハイブリッドは「オートバイオグラフィー P550e」が用意され、3.0リッター直6ガソリンに160kWの電動モーターを組み合わせます。そして頂点が4.4リッターV8系で、限定の「トゥエンティエディション P530」が1824万円、通常ライン最上級の「SVカーボン P635」が2586万円です。価格レンジは1296万円から2586万円と、実に1290万円もの幅があります。
限定車が最上級より762万円安い理由
ここで冒頭の逆説に戻ります。トゥエンティエディション(530ps/1824万円)と、SVカーボンP635(635ps/2586万円)の差は762万円。限定車のほうが大幅に安いのです。理由はシンプルで、両者は同じV8でもチューニングと位置づけが異なります。P635はSV専用の最強チューンで、専用シャシーや軽量パーツを与えられたシリーズの技術的頂点。一方のトゥエンティエディションは530ps版をベースに「人気オプションを標準化した記念車」であり、最強性能を狙ったモデルではありません。
では割安なのはどちらか。1馬力あたりの価格で割り算すると、トゥエンティエディションは1824万円÷530psで約3.4万円/ps、SVカーボンP635は2586万円÷635psで約4.1万円/psとなります。馬力単価でもトゥエンティエディションのほうが安く、しかもメリディアン3Dや23インチホイールといった「素のグレードなら数十万円〜のオプション」を標準で含みます。性能の絶対値ではP635に譲るものの、「装備込みの値ごろ感」と「20台という希少性」を両取りできるのはトゥエンティエディションのほうだと、新車を11台買ってきた経験からも感じます。下のマトリクスで、立ち位置の違いを整理しておきます。
たかまさはこう見ている

限定=最高額という思い込みを外すと、この14グレードの設計意図がよく見えてきます。
今回のレンジローバースポーツ2027年モデルで私が最も評価したいのは、限定車を「最高額のショーケース」にしなかった判断です。記念モデルを天井価格で出せばブランドの威光は示せますが、買える人はごく一部に限られます。トゥエンティエディションは530ps版をベースに人気オプションを標準化し、1824万円という「頂点ではないが届きうる」価格に収めました。希少性で煽るのではなく、内容で納得させる設計です。
一方で、性能の絶対値を求める層には依然としてSVカーボンP635という頂点が用意されています。つまり同じV8でも「希少性と装備で選ぶ1824万円」と「最強性能で選ぶ2586万円」が並立する構図です。どちらが上か下かではなく、価値の軸が違う。価格の高い安いだけでグレードを語れない好例だと思います。通常グレード側でも、ダイナミックHSEの装備標準化のように、据え置き価格で中身を厚くした動きがあり、年次改良としての完成度は高いと見ています。
超高級SUVの世界では、限定車は「希少性をいくらで売るか」というマーケティングの実験場でもあります。今回のように限定車を中位価格に置く設計が支持されれば、他ブランドの記念車戦略にも影響しうるでしょう。最後に、家計の視点を一つだけ。1800万円超の車両は購入費だけでなく、保険・税・整備を含む年間維持費まで含めて判断すべき買い物です。FP視点では、希少車ほど「出口(リセール)」と「保有コスト」を最初に試算しておくことを、強くおすすめします。割安に見える1台こそ、総保有コストで冷静に検証する価値があります。

