
各社の記事は「680万円から」と「黒い新グレード」で揃っています。ただ、公表された7仕様の価格を縦に並べ直すと、まったく別の話が出てきます。ガソリンで買える上限が、思ったよりずっと低いところにあるのです。
2027年モデルで新設された「ホクストン エディション ブラック」(872万円・D200のみの設定)。ブラックのブレーキキャリパー、コントラストルーフ、ブラックエクステリアパック、20インチ“スタイル 5089”アロイホイール(グロスブラックフィニッシュ)で内外装を統一しています。ベースのホクストン エディション D200は846万円で、差額は26万円です。
「入門グレードが680万円」と聞いて、その上に何段あると想像しますか。
ジャガー・ランドローバー・ジャパンは2026年9月10日、ラグジュアリーコンパクトSUV「レンジローバー イヴォーク」の2027年モデルを発表し、同日から全国の正規販売リテイラーで受注を開始しました。ラインアップを見直し、新グレードとして「ダイナミック S」と「ホクストン エディション ブラック」の2つを追加。価格は680万円から1,034万円までの全7仕様です。
各媒体はここまでを報じています。ただ、公表された7仕様を価格順ではなくパワートレーン別に並べ替えると、報道では触れられていない構造が浮かびます。2.0Lガソリンの「P200」で買えるのは742万円までで、その上のガソリンは963万円のオートバイオグラフィ P250まで一気に飛ぶ。間にある221万円の帯は、ディーゼルの3仕様だけが埋めています。742万円より上を望んだ瞬間、選択肢はディーゼルかPHEVに絞られる設計です。
本記事では、全7仕様の価格構造とパワートレーン別の価格帯マッピング、公式サイトが別途明記している経済変動加算額の扱い、そしてディーゼルを選んだ場合の加算額85万円・104万円が燃料費で何km走れば回収できるかを、FP(ファイナンシャルプランナー)の視点から検証します。

📌 全7仕様680万〜1,034万円の価格表を縦読みすると、ガソリンは742万円で天井に当たる

価格表は安い順に読むものだと思われがちですが、私は必ずパワートレーン別に並べ替えます。メーカーが「どのエンジンにどの価格帯を割り当てたか」は、カタログのどの文章よりも正直に戦略を語るからです。
680万〜1,034万円・全7仕様の価格構造を分解する
発表資料によれば、2027年モデルの構成は7仕様です。2.0LガソリンのP200がダイナミック S(680万円)とホクストン エディション(742万円)の2つ。2.0Lディーゼル(MHEV)のD200がダイナミック S(765万円)、ホクストン エディション(846万円)、ホクストン エディション ブラック(872万円)の3つ。そして上位に2.0LガソリンのオートバイオグラフィP250(963万円)と、1.5L+80kWモーターのPHEVであるオートバイオグラフィP300e(1,034万円)が置かれます。
価格の幅は354万円。7仕様という数はコンパクトSUVとしては十分に見えますが、重要なのは仕様数ではなく、その7つがどのエンジンに割り振られているかです。ガソリンP200が2つ、ディーゼルD200が3つ、そしてP250とP300eが1つずつ。この配分が、次に見る価格帯の断層を生んでいます。
742万円から963万円まで、ガソリンが1台も置かれていない221万円
ここが本記事の核心です。上の表をパワートレーン別に読み直すと、ガソリンP200の上限は742万円のホクストン エディション。ところが次にガソリンが現れるのは963万円のオートバイオグラフィ P250で、その間には221万円という空白が横たわります。そしてこの帯を埋めているのは、765万円・846万円・872万円のディーゼル3仕様だけです。
実務的にこれが何を意味するか。ディーラーで「イヴォークが欲しいが、750万〜900万円くらいの装備で考えたい」と伝えた瞬間、提示されるのはディーゼルだけになります。ガソリンのまま装備を上げたければ、742万円で止まるか、221万円積んで963万円のオートバイオグラフィに跳ぶかの二択です。実際にはガソリンかディーゼルかを選んでいるつもりでも、価格帯を決めた時点でエンジンが決まってしまう。この非対称性は価格表を安い順に眺めているだけでは見えません。
背景には欧州のCO2規制があります。イヴォークのディーゼルはマイルドハイブリッド(MHEV)で、減速時のエネルギーを回収して再利用する仕組みを持ちます。カタログ燃費でも、ガソリンP200のWLTCモード8.9km/Lに対してディーゼルD200は13.3km/Lと大きく開きます。売れ筋の中価格帯をCO2排出量の少ない側に寄せるのは、規制対応としては合理的な配置です。ただ、日本の購入者にとっては「中間価格帯のガソリンが選べない」という結果だけが残ります。
報道された「680万円から」に含まれていない、経済変動加算額17万6,000円
もう一つ、購入を具体的に検討する方に押さえていただきたい数字があります。RANGE ROVER日本公式サイトは、車両本体基準価格とは別に「経済変動加算額」という名称のサーチャージを2023年8月から導入していると明記しています。同サイトの記載によれば、当面の金額は16万円(消費税別)、税込で17万6,000円です。
公式サイトには表示例も掲載されており、車両本体基準価格に経済変動加算額を加えたものが、見積書や注文書に記載される車両本体価格になるという構造が示されています。この考え方を入口のダイナミック S P200に当てはめると、680万円+17万6,000円で697万6,000円。最上位のオートバイオグラフィ P300eなら1,034万円+17万6,000円で1,051万6,000円という計算です。長引く円安への対応として導入されたもので、為替レート等の経済情勢に応じて変更されると公式サイトは説明しています。
ここで思い出していただきたいのが、9月10日発売のジープ ラングラー ルビコン ファイナルエディション(899万円)です。あちらは発表時点で経済変動加算額40万円を含んだ総額が公表されていました。同じ輸入車でも、加算額を含めて発表するブランドと、本体価格とは別枠で運用するブランドがあるということです。見積書を受け取ってから驚かないよう、契約前に加算額の有無と金額をリテイラーに確認しておくのが確実です。

📌 ディーゼル加算85万円と104万円のねじれ、燃料費で取り戻すには10万km超が必要

「ディーゼルは軽油が安いから得」という説明を、私は何度も聞いてきました。ただ、得かどうかは加算額と走行距離の関係で決まります。数字を置いてみると、印象とはかなり違う景色が見えます。
公式サイトがディーゼルマイルドハイブリッドの紹介に使用している2027年モデルのホクストン エディション。D200は最高出力204PS・最大トルク430N・mで、減速時に失われるエネルギーを回収・蓄積・再利用するマイルドハイブリッド機構を備えます。公式サイト記載の性能値は最高速213km/h、0〜100km/h加速8.5秒です。
同じエンジン置き換えなのに、加算額が85万円と104万円に割れる
まず妙な点を指摘しておきます。ダイナミック Sで見ると、P200の680万円に対してD200は765万円で、ディーゼルの加算額は85万円。ところがホクストン エディションで見ると、P200の742万円に対してD200は846万円で、加算額は104万円になります。同じP200からD200への置き換えなのに、グレードによって19万円のずれが生じているわけです。
グレード間で標準装備の内容が完全に一致していれば、エンジン差額は同額になるはずです。したがってこのずれは、ホクストン エディションのD200仕様に、P200仕様にはない装備が含まれている可能性を示唆します。ディーゼルを検討される方は、同グレードのガソリン仕様との装備差をリテイラーの仕様書で照合したうえで、19万円の内訳を確認する価値があります。ここは公表資料だけでは断定できない部分で、後述のファクトチェックでも要確認として整理しました。
燃料費で回収するなら10.2万km、年1万kmなら10年かかる計算
では、この加算額は燃料費で取り戻せるのでしょうか。FP(ファイナンシャルプランナー)の視点で、実際に計算してみます。
資源エネルギー庁の石油製品価格調査によれば、2026年9月7日時点の全国平均価格はハイオクが180.9円/L、軽油が159.5円/Lです。イヴォークのガソリン仕様は無鉛プレミアムガソリン指定ですから、P200は180.9円÷8.9km/Lで1kmあたり約20.3円、D200は159.5円÷13.3km/Lで1kmあたり約12.0円。差は1kmあたり約8.3円になります。
この差で加算額を割ると、85万円の回収には約10万2,000km、104万円なら約12万4,800kmが必要です。年間1万km走る方なら、それぞれ約10.2年と約12.5年。年間1万km時の燃料費の差額は約8万3,000円ですから、燃料代だけを理由にディーゼルを選ぶ判断は、相当な長期保有と長距離走行が前提になります。もちろん430N・mという太いトルクや、満タンあたりの航続距離の長さは数字に表れない価値です。ただ、「軽油だから得」という一言で片付けるには、加算額が大きすぎます。
新グレード2つが標準化した装備と、黒く塗るための26万円
価格構造の話が続きましたので、2027年モデルで新設された2グレードの中身も押さえておきます。入口を担うダイナミック Sは、従来オプション扱いだった人気装備を標準化した仕様です。LEDヘッドライト(シグネチャーDRL付)、オートヘッドライトレベリング、ブライトメタルペダル、インタラクティブドライバーディスプレイ、そして19インチ“スタイル 5136”アロイホイール(グロスダークグレイ、ダイヤモンドターンドコントラスト)を備えます。個別にオプションを積み上げる手間を省いた、実質的な「装備込みの入門グレード」という位置づけです。
もう一つのホクストン エディション ブラックは、2026年4月に登場したホクストン エディションをベースに、外装をブラックで統一した仕様で、D200のみの設定です。追加装備はブラックのブレーキキャリパー、ブラックのコントラストルーフ、ブラックエクステリアパック、ブラックブラッシュドアルミニウムのトリムフィニッシャー(HOXTON EDITION BLACKグラフィック付)、20インチ“スタイル 5089”アロイホイール(グロスブラックフィニッシュ)です。ベースとの差は846万円に対して872万円で26万円。走行性能に関わる装備は含まれませんから、26万円はそのまま「黒で統一された外観」への値札と読めます。なおホクストン エディションには固定式パノラミックルーフが、オートバイオグラフィ P250にはアダプティブダイナミクスと21インチ“スタイル 5137”アロイホイールが標準装備されます。
📌 たかまさはこう見ている

私はこれまで11台を自分の名義で買い替えてきましたが、後悔が残ったのは決まって「選べる範囲を確認しないまま価格帯だけ決めた」ときでした。今回のイヴォークは、まさにその落とし穴が価格表に組み込まれています。
カーソムリエとしてこの7仕様を眺めると、ラインアップの設計思想ははっきりしています。入口を680万円のダイナミック Sで固め、中価格帯をディーゼルのマイルドハイブリッドに集約し、上を装備の豪華さで締める。欧州のCO2規制下で売れ筋を電動化寄りに置くという判断は、メーカーとしては筋が通っています。問題は、その筋の通り方が日本の購入者には「742万円の次は963万円」という飛び石として現れることです。ガソリンのまま装備を一段上げたいという、ごく普通の要望が受け止められません。
FPの視点で整理します。仮に740万円前後を予算にしてホクストン エディション P200を選ぶなら、そこがガソリンの上限だと理解したうえでの購入になります。逆に「もう少し出せる」と考えて765万円のダイナミック S D200へ動く場合、25万円の追加で得られるのはグレードの向上ではなくエンジンの変更です。しかもダイナミック S同士の85万円という加算額を燃料費で取り戻すには約10万2,000kmを要する。年1万km・5年で手放す前提なら、燃料費で回収できるのは半分にも届きません。さらに車両本体価格とは別に経済変動加算額17万6,000円が乗ることも、資金計画に織り込む必要があります。
では誰にどれが向くか。年間2万km以上走り、10年近く乗り続ける方には、ディーゼルの太いトルクと燃料費差が効いてきます。年1万km前後で5年以内の乗り換えを考える方は、680万円のダイナミック S P200が最も無駄のない選択です。そして742万円から963万円の間を希望する方は、価格帯を決める前にエンジンを決めるという順番で考えたほうが失敗しません。価格表は装備の一覧であると同時に、メーカーが「あなたにどれを選んでほしいか」を書き込んだ地図でもあります。地図の空白は、たいてい意図的に空けられているのです。
🔍 この記事のファクトチェックについて
本記事に掲載した車両画像は、すべてRANGE ROVER日本公式サイト(https://www.rangerover.com/ja-jp/)の「RANGE ROVER EVOQUE モデル概要」ページに掲載された公式画像から引用しています。ヒーロー画像は2027年モデルの新グレード「ホクストン エディション ブラック」、サブ画像は同ページがディーゼルマイルドハイブリッドの紹介に用いる2027年モデルの「ホクストン エディション」です。引用は著作権法第32条に基づき、報道目的での適正な範囲内で実施しています。
