
「約1割の値上げ」と聞くと全区間が1割上がる印象ですが、料金式の固定部分150円は据え置きです。計算すると、1割上がる距離はどこにもありません。負担が重いのは毎日長く乗る人です。
「首都高は10月から一律1割の値上げ」。そう思い込んでいませんか。
首都高速道路株式会社は2026年10月1日0時から通行料金を改定します。普通車の1kmあたり単価は29.52円から32.472円へ約1割引き上げられ、上限料金は1,950円から2,130円へ180円上がります。一方で、1回の利用ごとにかかる固定部分150円と下限料金300円は据え置き。このため実際の値上げ率は距離によって0%から約9.6%に散らばり、ちょうど1割上がる区間は存在しません。
しかも今回、値上げが先に来るのは軽・二輪と普通車だけです。中型車・大型車・特大車は2027年6月30日まで9か月間、現行料金に据え置かれます。首都高の利用は1日約106万台(2024年11月実績)にのぼり、首都圏のマイカー通勤・送迎・レジャーの足に直接響く改定です。
本記事では、公式の料金算定式から距離別の値上げ率を計算し直したうえで、FP(ファイナンシャルプランナー)の視点から、通勤で毎日使う人の年間負担増と、深夜割引・ETCを使った負担の抑え方を検証します。

📌 首都高10月1日料金改定の中身、普通車は1km32.472円・上限2,130円へ

上がるのは軽・二輪と普通車だけで、トラック類は2027年7月まで現行料金です。乗用車ユーザーが9か月先に負担する設計だという点を、まず押さえておきたいところです。
いつ、何が変わるのか:単価1割アップ・固定部分と下限は据え置き
首都高速道路株式会社は2026年7月31日、10月1日0時からの料金改定を発表しました。普通車の1kmあたり単価は29.52円から32.472円へ、約3円(約1割)の引き上げです。全車種を平均した改定率は8.1%とされています。上限料金を適用する料金距離の55.0km、普通車の下限料金300円、軽・二輪の下限280円は変わりません。
見落としやすいのが料金の計算式です。首都高ドライバーズサイトによれば、ETC車の料金は「料金距離×車種別の1km単価+150円」に消費税をかけ、10円単位で四捨五入して求めます。この「1回ごとに150円」の固定部分(ターミナルチャージ)は今回の改定で動きません。単価だけが1割上がり、固定部分が据え置かれる。この組み合わせが、後で見る「値上げ率が1割に届かない」現象の正体です。
区間別の値上げ額:20km利用は810円から880円へ70円増
公式の説明資料に示された普通車ETCの区間例は、次のとおりです。川崎浮島JCTから空港中央の4.2kmは300円から320円(+20円)、京葉道路接続から錦糸町の7.9kmは420円から450円(+30円)、中央道接続から箱崎の18.8kmは780円から840円(+60円)、川口JCTから葛西の33.8kmは1,260円から1,370円(+110円)です。三ツ沢接続から三郷JCTの56.6kmは上限が適用され、1,950円から2,130円(+180円)になります。
JAF Mateの解説では、よく使われる20km程度の利用は810円から880円(+70円)と紹介されています。1回あたりでは数十円の差でも、通勤や送迎のように往復を毎日繰り返すと、年間では数万円単位に積み上がります。この点は後半でFP視点から試算します。
ETCを使わない現金車は、一部区間を除いてETC車の上限料金を支払う仕組みです。10月1日以降、普通車の現金利用は短い区間でも原則2,130円になります。ETC車載器の有無で差が大きく開く料金体系は、改定後も変わりません。
値上げの理由:維持管理費は10年で約1.4倍、労務費・材料費の高騰
首都高は値上げの理由として、労務費・材料費の急激な高騰による維持管理コストの上昇への対応を挙げています。説明資料によると、維持管理費は2014年度から2023年度までの直近10年で約1.4倍に増えました。開通から半世紀を超える路線を多く抱える首都高にとって、補修・点検の費用増は避けて通れない課題です。
説明資料には、事故・故障・落下物への対応が年間約3.8万件(1日約100件)にのぼることも記されています。今回の改定には、こうした現場を担う人材を確保し、適正な賃金で道路を維持するという目的も含まれています。一方で、物流事業者向けの大口・多頻度割引(最大45%)の拡充や、都心流入割引などは2031年3月末まで継続されます。深夜割引(0〜4時に入口を通過したETC車は20%割引)も引き続き実施されます。

📌 「約1割」は本当か、固定部分150円が生む値上げ率の差とFP試算

値上げ率は短距離ほど低く、長距離ほど1割に近づきます。つまり今回の改定は、首都高を長く使う人ほど重くなる設計です。家計への影響は率ではなく、距離と回数で測るべきです。
1割上がる区間は存在しない:短距離は0〜7%、長距離でも最大9.6%
公式の料金算定式に新旧の単価を入れて、0.1km刻みで普通車ETCの料金を計算し直しました。まず、4.2kmから55kmまでの公式区間例は、この計算ですべて一致します。そのうえで距離ごとの値上げ率を見ると、ちょうど1割(10%)上がる距離は一つもありません。最大は46.5km前後の約9.6%で、これは10円単位の四捨五入が重なった結果です。上限区間は9.2%、よく使われる20kmは8.6%、18.8kmの都心アクセスは7.7%にとどまります。
理由は単純で、料金の中に1回150円の固定部分があるからです。単価が1割上がっても固定部分は動かないため、利用距離が短いほど料金全体に占める固定部分の割合が大きく、値上げ率は薄まります。さらに約3.9km以下の利用は、改定後も下限の300円に収まるため実質0%です。「約1割値上げ」という見出しは1km単価の話であって、利用者が払う1回の料金の話ではありません。軽・二輪も同じ構造で、上限は1,590円から1,740円(+9.4%)です。
FP視点・通勤20km往復で年3.36万円、上限区間なら年8.64万円の負担増
ここからはFP(ファイナンシャルプランナー)の視点で、率ではなく金額で負担を測ります。片道20km(810円→880円)を平日に往復し、年240日使うと仮定します。年間の通行料は38万8,800円から42万2,400円になり、負担増は年3万3,600円です。ガソリン代や駐車場代とは別に、毎月2,800円が固定費として上乗せされる計算になります。
上限区間(55km超)を同じ頻度で往復する人は、1,950円→2,130円で年93万6,000円から102万2,400円へ。負担増は年8万6,400円で、年間の通行料が100万円の大台を超えます。一方、週末に都心へ出かける程度の利用なら、20km往復を月4回として年6,720円増にとどまります。同じ「1割値上げ」でも、上限区間の毎日通勤と比べれば家計への影響は約13倍も開くのです。
数字を引き算しておくと、通勤で首都高を使う会社員が勤務先から通勤手当として高速代の実費を受け取っている場合、今回の値上げ分は勤務先の負担に移ります。反対に、個人事業主や、自家用車で送迎・通院に使う人は全額が自己負担です。まずは自分の「首都高にかかっている年額」を利用明細で把握することが、対策の第一歩になります。
乗用車だけ先行、トラックは9か月据え置き:深夜割引とETCで負担を抑える
今回の改定で目を引くのは、車種による時差です。首都高は、中型車・大型車・特大車について物流事業者の負担に配慮した特別措置として、2027年6月30日まで9か月間、現行料金に据え置きます。その結果、普通車と中型車の1km単価の比は、現行の1.2倍(29.52円と35.424円)から、据え置き期間中は約1.09倍(32.472円と35.424円)まで縮まります。物流業界への配慮である一方、乗用車ユーザーが先に負担を背負う構図でもあります。
個人ができる防衛策は、主に3つです。1つ目は深夜割引で、0時から4時までに入口を通過したETC車は20%割引になります。上限区間でも2,130円の2割引で約1,700円となり、改定前の通常料金1,950円を下回ります。2つ目はETCの利用で、現金車は原則として上限料金の2,130円を払うことになるため、短距離利用が多い人ほどETC車載器の有無で大きな差が出ます。3つ目は経路と時間帯の見直しで、首都高を使う区間を短くするだけでも、固定部分150円の比率が上がって値上げ率は下がります。
📌 たかまさはこう見ている

2022年3月に1,320円だった普通車の上限は、10月から2,130円です。4年半で61%上がった計算で、首都高は「たまに使う道」から「使うほど高くつく道」へ変わりつつあります。
首都高の料金体系は、2016年4月の対距離制への移行、2022年4月の上限見直しを経て、段階的に「長く走る人が多く払う」方向へ動いてきました。2022年4月の見直しでは、普通車の上限が1,320円(35.7km超)から1,950円(55.0km超)へ引き上げられ、同時に深夜割引が導入されています。今回は上限の距離は変えず、1km単価そのものを上げる改定です。上限は2022年3月の1,320円から4年半で810円、率にして約61%上がったことになります。維持管理費が10年で約1.4倍になった現実を考えれば、利用者負担の増加は避けがたい流れです。
私は20年あまり自動車業界を取材し、無事故無違反で首都高も数えきれないほど走ってきましたが、首都高の路面や設備が保たれているのは、年間約3.8万件の事故・故障・落下物対応を含む現場の仕事があってこそです。その費用を利用者が分担すること自体には合理性があります。問題は、値上げが「約1割」という一つの数字で語られ、自分の負担がいくら増えるのかが見えにくいことです。今回の試算のとおり、率は最大でも約9.6%でも、金額は利用頻度によって年6,720円から年8万6,400円まで大きく開きます。
10月1日を前に、まずETCの利用明細で自分の首都高利用の年額を確かめ、通勤なら通勤手当の扱い、深夜帯に移せる移動があるか、首都高を使う区間を短くできないかを点検してみてください。FP視点で見れば、値上げへの最も確実な対策は「使い方を知ること」です。道路の料金は一律に上がっても、負担の重さは使い方を知っている人ほど軽くなります。
