
「テラノ」の名前が中国の北京で蘇るとは、24年前に2代目を見送った私にも想像できませんでした。グローバル展開の主役が日本から中国に移った時代の象徴です。
「テラノ」はもう手の届かない過去の名車だ。そう思い込んでいませんか。
2026年4月24日、日産自動車は北京モーターショー2026(Auto China 2026)において、新エネルギー車(NEV)の新型SUVコンセプトカー「テラノPHEVコンセプト」を世界初公開しました。2002年の国内生産終了から24年、初代D21型のレトロモチーフを意識的に取り込んだ電動オフロードSUVとして、ついに「テラノ」の名前が復活したのです。
同時公開された「アーバンSUV PHEVコンセプト」と合わせ、両モデルの市販版は1年以内に発表予定。日産は2030年度までに中国販売100万台を目標に掲げ、中国を「グローバルなイノベーションと輸出のハブ」と明確に位置付けました。テラノPHEVの量産モデルも、輸出計画に組み込まれています。
この記事では、自動車ジャーナリスト歴20年・カーソムリエ・11回の車種買い替え経験を持つ私の視点から、初代D21型から4代目PHEVコンセプトまでの「テラノ4局面史」と、中国発グローバル展開戦略におけるテラノの位置付けを検証します。
📌 24年ぶり「テラノ」復活の全貌・1986年D21型DNAから4代目PHEVコンセプトへ

初代D21型のスクエアなフェイスをそのまま現代解釈で蘇らせた点は、単なる懐古ではなく「ハイラックスサーフへの再対抗」の意思表示と受け取れます。
北京モーターショー2026で公開された「テラノPHEVコンセプト」の中身
日産がワールドプレミアした「テラノPHEVコンセプト」は、最新のプラグインハイブリッド技術を搭載した本格オフロードSUVです。フロントグリル中央には立体的に発光する「NISSAN」ロゴを配し、その両サイドには水平4連の白色LEDシグネチャーランプを採用。往年のスクエアなプロポーションを残しつつ、未来的な光のデザインが融合されています。
装備面で目を引くのは、リアに背負ったマッドテレーンタイヤのスペアタイヤ(Mickey Thompson「BAJA LEGEND MTZ」を装着)、ルーフ上の大型ラゲッジラック、フェンダー部のイエローのマーカーライト、そしてボディ下部全周を覆うブラックアウトされた樹脂プロテクション。「アウトドアでの走破性と都市部での快適な通勤を両立する」という日産の宣言を、視覚的に裏打ちする装備一式です。
サイドビューでは長方形を基調とした直線的なキャビンと短いオーバーハングが組み合わされ、岩場や砂丘でも十分なアプローチアングル・デパーチャーアングルを確保。本格オフローダーとしての素性が、デザインのあらゆる箇所から読み取れます。
初代D21型(1986年)から2代目(1995年)・国内2002年生産終了までの歴史
初代テラノ(D21型)は1986年8月、ダットサントラック(D21型)をベースに、トヨタ・ハイラックスサーフへの対抗モデルとして登場しました。日産北米デザインスタジオ「NDI」がデザインを担当し、北米では「オフロードのZカー」と呼ばれた個性的な存在。海外名は「パスファインダー」で、ボディは2ドアのみ、エンジンは新開発の直列4気筒OHV・TD27型ディーゼル、サスペンションは前独立懸架・後5リンクコイルリジッドというSUVの王道構成でした。
1995年に登場した2代目(R50型)は、ラダーフレームをモノコックボディに組み込んだセミモノコック構造を採用。3.3L V6ガソリンや3.2Lインタークーラーターボディーゼルなどパワーユニットを多彩化し、スカイラインGT-Rのトルクスプリット4WD技術を応用した「オールモード4×4」も投入されました。しかし2002年8月、国内向けの2代目を最後にテラノは日本市場から姿を消したのです。
その後の数字を振り返ると、2002年から2026年までの空白期間は約24年。普通車であれば2世代分、軽自動車であれば3世代分が入れ替わるほどの長さです。私が初代D21型のV6 R3Mに憧れていた1980年代後半、まさかその名が令和の中国で蘇るとは、想像もしませんでした。
パスファインダーへの転身と「テラノ」名前の二度目の復活劇
「テラノ」の名前は実は、これが二度目の復活劇です。一度目は2013年。インドおよびロシア市場向けに、ルノーグループのダチア・ダスターをベースとした廉価SUVとして「テラノ」の名前のみが復活しました。ただしこちらは2代目までのテラノとはメカニズム的な繋がりがなく、サイズも全長4,330mm前後の小型車でした。
一方、海外名「パスファインダー」は3代目以降も継続生産。3代目で大型化、4代目はFF乗用車用プラットフォームをベースにした全長5m級の3列シートSUVへと変貌し、2021年には5代目にフルモデルチェンジしています。つまり「テラノ=オフローダー」という日本での記憶と、「パスファインダー=大型ファミリーSUV」というグローバル現実は、24年間平行線をたどってきたのです。
今回のテラノPHEVコンセプトが意義深いのは、この平行線を一旦リセットし、初代D21型のスクエアでタフなDNAに敢えて回帰した点。「アウトドアでの走破性」を継承するという日産公式メッセージは、4代目・5代目パスファインダーが歩んだ「都市派ファミリーSUV」路線とは明らかに異なる方向を指しています。

📌 中国発「グローバル輸出ハブ戦略」とテラノPHEVの位置付け

テラノは単独の復活ではなく、日産がN7・フロンティアプロ・NX8と組み立てた「中国発世界輸出」三段ロケットの4本目です。日本ブランドの供給地図が確実に書き換わっています。
アーバンSUV PHEVコンセプトと「都市派×オフロード派」の二刀流戦略
北京モーターショー2026で日産が公開したコンセプトカーは2台。テラノPHEVコンセプトと並んで、中国の若年層をターゲットにした「アーバンSUV PHEVコンセプト」も同時にワールドプレミアされました。後者はクーペ風シルエットに「一文字ライト」を採用した流麗なデザインで、すでに発売済みのミドルクラスBEV「NX8」や日産の将来SUVラインアップに通じる要素を備えています。
注目すべきは、この2台が同じPHEVシステムをベースにしながら、まったく異なる顧客層に向かうコンセプトとしてセットで発表された点です。都市派の若者には流線型のアーバンSUVを、アウトドア派には武骨なテラノを。日産は「中国市場のSUVニーズを左右両翼でカバーする」二刀流戦略を、コンセプトカーで明示したわけです。
これは中国市場の競争環境を考えると合理的です。BYD・吉利・長安などの中国系勢力が新エネルギー車で価格攻勢をかけるなか、単一カテゴリーで戦うのではなく、複数の「ニッチ×PHEV」で勝負する。私が見てきた11回の車種選びの経験では、メーカーが本気でラインアップを刷新する局面では、必ずこの「同時複数投入」が起きます。
N7・フロンティアプロ・NX8と組み合わさる「中国発世界輸出」三段ロケット
テラノPHEVコンセプトを単独で見ると、単なる名前復活劇に映ります。しかし日産が2025年以降に中国で投入してきたモデル群と並べると、その輪郭は一変します。
まず2025年に発表された「N7」(中型EVセダン)は、すでに中南米とアセアンへの輸出計画が公表されています。続いて「フロンティアプロPHEV」(ピックアップトラック)は、中南米・アセアン・中東への輸出が決定。さらに2026年4月発売の「NX8」(ミドルクラスEV SUV)も、輸出計画に組み込まれました。そして今回、テラノPHEVコンセプトの量産モデルも輸出対象として明言されたのです。
つまり、N7(セダン)→ フロンティアプロ(ピックアップ)→ NX8(EV SUV)→ テラノPHEV(オフロードSUV)と、わずか1年強でカテゴリーを横断する4モデルが「中国製・日産ブランド・グローバル輸出」の枠組みに乗せられる構図です。日産は2030年度までに中国販売を年間100万台に到達させる計画を公表しており、この100万台のうちの一定割合は最初から輸出を前提に設計されている、ということになります。
量産モデル輸出計画と日本市場導入の可能性
気になるのは「テラノPHEV量産モデルが日本に来るのか」という点です。現時点で日産は具体的な輸出仕向地を「中南米・アセアン・中東」とまでは明示していません。テラノPHEVと「NX8」については「輸出することを計画している」と表現しており、市場名はまだ含みを残した状態です。
ただ、すでに日産は2026年3月に米国生産の「ムラーノ」を日本市場に導入する判断を下しており、「グローバル拠点で生産した日産車を日本に逆輸入する」という選択肢自体が現実のものとなりました。中国製のリーフB7(55kWhグレード)の話題にも見られるように、「中国製日産車の日本導入」というシナリオも、ゼロではないと私は見ています。
もちろん、現時点ではコンセプトカーであり、価格もスペックも未公開。本格オフロード装備を盛り込んだ仕様だけに、日本のSUV市場では「ランドクルーザー250」「ジムニーノマド」と競合する可能性が高く、独自の立ち位置を作るには商品設計の工夫が必要です。それでも、24年ぶりに「日本人の心に残るネーミング」が世界の舞台で蘇った事実は、SUV好きにとって見逃せない事件です。
たかまさはこう見ている

テラノの復活は懐古マーケティングではなく、日本ブランドの「供給地図」が組み替えられる時代の幕開けだと私は読んでいます。
「テラノPHEVコンセプト」を単なる名前マーケティングと片付けるのは、見当違いだと私は考えます。日産が中国市場で投入したN7・フロンティアプロ・NX8が、ことごとく「中国発の輸出計画」とセットで発表されてきた事実を踏まえると、テラノもその例外ではないからです。N7はセダン、フロンティアプロはピックアップ、NX8はEV SUV、そしてテラノはオフロードSUV。カテゴリーを横断する4モデルが、わずか1年強で「中国発・グローバル輸出」の枠組みに揃ったのは、偶然の積み重ねではなく明確な戦略です。
20年以上にわたって自動車業界を取材してきた経験から言えば、これは日本の自動車メーカーにとって象徴的な転換点です。1980年代の日本車は「日本で作って世界へ売る」が王道でした。しかし2026年の日産は、「中国で作って世界へ売る」を実装段階まで持ち込んでいる。私が初代D21型のCMを見ていた高校時代、まさかその名前が中国のショーで蘇り、しかも輸出計画の中核に位置付けられるとは予想できませんでした。これは日本ブランドの「グローバル供給地図」が確実に書き換えられている証拠です。
読者の皆さんへの提案は、二つあります。第一に、テラノPHEVコンセプトの市販モデル発表(1年以内予定)と日本導入の可能性を継続的にウォッチすること。価格・装備・輸出仕向地の発表段階で、購入候補としてランクル250・ジムニーノマドと比較する判断軸を準備しておく価値があります。第二に、日産以外のメーカーでも同じ「中国発・名前復活」が起きないか観察すること。トヨタ・ホンダ・マツダの中国合弁が、過去のグローバル名車を電動化して世界に再投入する展開は、十分に起こり得ます。名前は復活しても、生まれる場所は同じとは限らない時代が、もう始まっています。

