
5/6発売のビッグマイチェン版ノア/ヴォクシーに、わずか6日でモデリスタの2列5人乗り派生が乗ってきました。新型の素性が「3列ミニバン」のままでは終わらない宣言です。
ノア/ヴォクシー“MULTI UTILITY”。S-G(HEV・2WD)をベースに3列目を撤去、2列5人乗りに振り切ったコンプリートカー
出典:株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント/モデリスタ 公式ニュースリリース『モデリスタコンプリートカー ノア・ヴォクシー“MULTI UTILITY”を発売』(2026年5月12日)
「ミニバンは3列8人乗りでこそ完成形」。そう思い込んでいませんか。
本日2026年5月13日、前日5月12日に株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(TCD)が発表した、モデリスタブランドのノア/ヴォクシー“MULTI UTILITY〈MU〉”の詳細が出揃いました。5月6日にビッグマイナーチェンジで発売されたばかりのHEV専用化・新世代90系の派生として、わずか6日後にお目見えしたコンプリートカーです。ベースはS-G(HEV・2WD)で、3列目を完全撤去して2列5人乗り化。価格はノア407万円、ヴォクシー412.06万円。素のS-Gより約14万円〜18万円アップの設定です。
専用ラゲージフレームとラゲージボードの2段構造、165,000円の架装メーカーオプション「フロントベッドボード」装着で大人2人がフラットに横になれる車中泊空間、110,000円の販売店装着オプション「MU専用シートカバー」(ギア装着ベルト付き)。車中泊・趣味の道具運び・アウトドアという用途特化を、メーカー保証付きの工場架装で実現しています。
この記事では、20年以上の自動車取材経験を持つ私が、5月6日改良のノア/ヴォクシー本体の路線変更と合わせて、MUがこの時期に投入された意味、ベース車から約15万円増で何が変わるのか、そして現行ヴォクシー90系HEV S-Gでの「3列保持」と「2列特化」の判断軸を整理します。
📌 5/12発表MUの中身。S-G HEVベースに3列廃止と専用2段ラゲージで407万円

架装はメーカー工場で行うため持ち込み登録扱い。後付けで2列化するのとは保証範囲がまるで違います。20年取材してきた中でも、HEV専用化MC直後の派生としては異例の速さです。
① 5月12日発表MUの正体。MCの6日後に出てきた90系の「裏のメニュー」
株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(モデリスタブランド)は2026年5月12日16時35分、「ノア」「ヴォクシー」をベース車にしたコンプリートカー“MULTI UTILITY〈MU〉”を発表しました。同月6日に発売された90系ビッグマイナーチェンジ後のS-G(ハイブリッド車・2WD)をベース車とし、3列目シートを取り払って2列5人乗り仕様にしたモデルです。
架装メーカー希望小売価格はノアが407万円、ヴォクシーが412万600円。北海道地区は寒冷地仕様込みで413万7100円/418万7700円となります。車両型式はノアが6AA-ZWR90W-WVMZAF、ヴォクシーが6AA-ZWR90W-WVMZBFで、いずれもベース車型式の末尾が「ARXSB/BRXSB」から「WVMZAF/WVMZBF」に置き換わる正式な架装登録車。後付けカスタムではなく、トヨタの販売チャネルで完成車として購入できる位置づけです。
② 標準架装の核心。「専用ラゲージフレーム&ラゲージボード」で2段収納に
フロントベッドボードを装着した状態。3分割パネルを広げて大人2人がフラットに横になれる空間が現れます(架装メーカーオプション・16.5万円)
出典:株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント/モデリスタ 公式ニュースリリース『モデリスタコンプリートカー ノア・ヴォクシー“MULTI UTILITY”を発売』(2026年5月12日)
MUが「3列を外しただけのモデル」ではない最大の根拠が、標準架装の「専用ラゲージフレーム&ラゲージボード」です。荷室空間を上下2段に仕切ることで、買い物の荷物と趣味のギアを分けて積める設計。走行時の耐荷重は60kgで、釣り具・キャンプ道具・自転車パーツといった「下に重い物・上に軽い物」を仕分ける現実的なレイアウトが標準で組み込まれます。
加えて、天井に6灯のLED専用ルームランプ、デッキサイド左にDC12V・120Wの専用アクセサリーソケット、専用クォータートリムトレイ、耐荷重3kgの専用ユーティリティフック、バックドア左の「MU」車名デカール、これらが標準架装で付くのが90系MUの素性です。電源と照明と物掛けが最初から付いているので、車中泊に踏み込むユーザーが追加で買い足す装備が少なく済む構造になっています。
③ オプションで「車中泊フラット」へ。フロントベッドボード16.5万円で大人2人就寝
主役級の架装メーカーオプションが「フロントベッドボード」(165,000円・消費税抜き150,000円)です。リヤシートを倒したうえで3分割のベッドボードを展開すると、大人2人が横になれるフラットな空間が成立。総耐荷重150kgで、就寝中の体重に十分耐える設計です。重要なのは、荷物をラゲージボードの下に収納したまま、上のスペースだけをベッドに使えること。「車中泊するとき、荷物をどかすために外に放り出す」という典型的なミニバン車中泊の困りごとが構造的に解消されています。
販売店装着オプションでは「MU専用シートカバー」(110,000円・消費税抜き100,000円、取付1.8H)も用意。シートバックに設けたベルトでギアやポーチが固定できる、実用性に寄せた仕立てです。MU本体+ベッドボード+シートカバーをフル装着すると、車両税抜き価格で約450万円弱。これがモデリスタが描く「日常から車中泊まで完結する一台」のフルパッケージ像です。

📌 90系MCのHEV専用化とMUの関係。3列ミニバンの常識が解けていく路線分岐

本体MC直後の派生投入は、ユーザーニーズの方向性をメーカーが把握済みだったという証拠でもあります。3列を必要としない層が確かに存在する、という宣言です。
① 「3列ミニバンの常識」が崩れていく10年の流れ
振り返ると、80系ノア/ヴォクシー時代の2019年1月にも初代MUが投入され、80系の終盤までラインナップに残りました。今回はモデルチェンジ後の発売間隔がさらに短く、新型MC(5月6日)からわずか6日後(5月12日)でMUが追加されています。これは、90系の改良ライン投入時点でモデリスタ側の架装ラインが立ち上がっていたことを意味します。トヨタ本体としても、3列を捨てて2列特化に振り切る層がコンパクト〜ミドルミニバンの確実な一角を占めると認識している証拠です。
背景は明確で、5月6日改良で90系の通常グレードは2.0Lガソリン廃止・1.8L HEV専用化を断行しました。HEV専用化は「環境性能と走り方を一段引き上げる代わりに、価格レンジを上方シフトさせる」決断ですが、その上昇分を吸収できるのは「クルマを多用途に使い倒すユーザー」です。ファミリー需要だけに依存していたら、HEV専用化の価格は重く感じる。だから、車中泊・趣味のトランスポーター・小規模事業者と、複数の出口を90系に同居させる必要があり、その一つの解がMUという派生でした。
② 5人乗りMUを選ぶ意味。3列の「いる/いらない」判断軸
取材経験から言えるのは、ノア/ヴォクシーオーナーの「3列目を年に何回展開するか」は、購入前の想定と乗り出し後の実態で大きく乖離するということです。私自身が11回の車買い替えで重ねてきた経験でも、3列シートが「常設の物置」と化しているクルマを何度も見てきました。MUは、その「実態としては5人で乗っている、3列目は荷物が乗っているだけ」というユーザーに、最初から物置側を機能化した選択肢を提示しています。
判断軸を整理すると次の通りです。年に数回でも3列を展開する家族構成なら、素のS-G HEV(または上位S-Z)が筋。3列の常用がなく、買い物・週末のキャンプ・釣り・自転車輪行・楽器運搬が日常に組み込まれているなら、MUの2段ラゲージは初期投資15万円弱で生活動線が一段ラクになります。年に1〜2回の車中泊まで想定するなら、ベッドボード16.5万円を足してフルセットを組む、というのが現実的な使い分けです。
③ MU設定ボディカラーとオプション選択。「アーバンロック」「ニュートラルブラック」の両刀
MUのボディカラー設定は両車共通で「アーバンロック」「ニュートラルブラック」、ノアにのみ「メタルストリームメタリック」、両車に「プラチナホワイトパールマイカ」がメーカーオプション3万3000円で設定されます。アーバンロックは2025年12月発売のRAV4から本格採用された新色で、SUVライク・アウトドアテイストを意識した色味。MUのアウトドア訴求と整合します。ニュートラルブラックは2026年5月12日のカローラ60周年記念ACTIVE SPORTでも採用された色で、トヨタ最近の主力色の一つです。
架装メーカーオプションのフロントベッドボードは注文時のみ指定可能で、後付け不可。販売店装着オプションのMU専用シートカバーは納車後の追加も可能ですが、新車購入時に同時発注した方が結局は工賃面で有利です。私は買い替え11回の経験から、コンプリートカーは「最初の一発で揃えてしまう」が鉄則だと考えています。
たかまさはこう見ている

MUは「ミニバンとは何か」を再定義する一台ではなく、すでに起きていた変化に追いついた一台です。読みどころは、トヨタが「3列を捨てる選択肢」を本流ラインに置いた点。
20年以上自動車業界を取材してきて、ミニバンの世界には一つの不文律がありました。「3列8人乗りを売っておけば外さない」。3列を装備する代わりに、現実には荷物置き場として死蔵されている、その構造自体は10年以上前から見えていたわけです。それでも本流ラインでは「8人乗れる」がカタログの一等地に置かれ続けてきました。
MUがおもしろいのは、その不文律にトヨタ自身が公式に風穴を開けてきた点です。本体MCで2.0Lガソリンを廃止し、車体価格を上方シフトさせた直後に、「3列を捨てて2列に特化する派生」をモデリスタ経由で正規ラインに乗せた。これは販売店にとっては「3列が必要かどうか、お客様に正面から聞いてください」と言われたに等しい。ファミリー需要だけを狙う商品設計から、ライフスタイル別に選んでもらう商品設計への切り替えです。
もう一点見逃せないのは、MUベース車のS-G HEVが、ノア/ヴォクシーの「真ん中グレード」だという事実です。最廉価のS-Xでも最上位のS-Zでもなく、ボリュームグレードのS-Gにあてた。これは「車中泊・アウトドア用途は一部のマニアではなく、ボリューム層が普通に持つニーズ」だとモデリスタ=トヨタが見ている証拠でもあります。トヨタにとってのアウトドア需要が、ハイラックスやランクル系の「冒険装備」だけでは取り切れなくなっている、その裏返しでもあるわけです。
判断軸として読者にお伝えしたいのは、「3列を残すか捨てるか」をクルマ任せにしない、という点です。これまで10年以上「とりあえず3列」を選び続けてきた人は、いったん「年に何回3列を本気で展開するか」を数字で書き出してみる価値がある。そして10回未満なら、MUか他社の2列特化派生(ステップワゴンエアー系・セレナ5人乗り系)を真剣に検討する。クルマは家族の生活パターンに合わせる時代に入りました。
3列があるかないかが、ミニバンの価値を決める時代は終わりつつあります。

