
7月14日の本欄で、新型CLAの内燃機関モデルを取り上げたとき、私は「BEVの国内導入時期は未確定」と書きました。その答えが7月29日に出ました。しかも価格表を並べてみると、補助金を引いた電気自動車がガソリン車より安いという、予想外の並びになっていました。
2026年7月29日に予約注文の受付が始まったCLA 250+ with EQ Technology(写真は欧州仕様車)。CLAとして初の電気自動車で、リア・アクスルに永久磁石同期モーターと2速EVトランスミッションを搭載する後輪駆動です。フロントには142個のLEDでスターパターンを描くイルミネーテッドパネルを備え、Cd値0.21を達成しています。
出典:メルセデス・ベンツ日本ニュースルーム『「CLA with EQ Technology」、「CLA Shooting Brake with EQ Technology」を発表』(2026年7月29日)
電気自動車は、同じ車のガソリン版より高いものだと思っていませんか。
メルセデス・ベンツ日本は2026年7月29日、CLAとして初の電気自動車「CLA with EQ Technology」「CLA Shooting Brake with EQ Technology」を発表し、全国の正規販売店で予約注文の受付を開始しました。価格はCLA 200 with EQ Technologyが668万円、CLA 250+ with EQ Technologyが775万円、シューティングブレークが691万円と798万円。そしてこの4仕様すべてに、クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)98万円が適用されます。
ここで、7月9日に発売された同じ車体の内燃機関モデルの価格表を隣に置いてみます。CLA 180が598万円、CLA 220が687万円。電気自動車の入口668万円から98万円を引くと実質570万円ですから、ガソリンのCLA 180より28万円安い計算になります。上位同士でも、実質677万円のCLA 250+がCLA 220の687万円を10万円下回ります。4組すべてで、電気自動車のほうが安いのです。
本記事では、4仕様の価格構造と補助金98万円という数字の意味、航続771kmという記録の裏側にある日本仕様の急速充電事情を整理し、最後にFP(ファイナンシャルプランナー)の視点から実質価格と5年間の保有コストを検証します。

📌 CLA電気自動車668万円からの価格表、補助金98万円が同じ車体のガソリン車を追い越す

価格表は横に読むと「電気自動車は70万円高い」と見えます。しかし補助金の欄を足して縦に読み直すと、順位が入れ替わります。今回はこの読み替えがすべてです。
668万〜798万円・4仕様の価格と航続距離を並べる
ラインアップは4ドアクーペとシューティングブレークの2ボディ、それぞれに電池容量の異なる2仕様という構成です。CLA 200系が58kWh、CLA 250+系が85.5kWh。セルはニッケル・マンガン・コバルト系で、負極にグラファイトとシリコンオキサイドを組み合わせ、体積エネルギー密度680Wh/Lを実現しています。従来型比で重量あたりのエネルギー密度は最大20%向上したと公式リリースは説明しています。
一充電走行距離(WLTP)はCLA 250+が最大771kmで、これは日本市場で販売されるメルセデス・ベンツの電気自動車として最長です。シューティングブレークのCLA 250+が755km、CLA 200が525km、CLA 200シューティングブレークが513km。モーターはリア・アクスル搭載の永久磁石同期式で、CLA 250+は最高出力200kWを発生します。長距離走行時にはバッテリーからホイールまでの効率93%(欧州参考値)に達するとされ、リア・アクスルには2速EVトランスミッションが組み合わされます。
実質570万円と598万円、4組すべてで電気自動車が安くなる逆転構造
ここが本記事の核心です。公式リリースには「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金 補助額 98万円」と明記されており、これは4仕様に共通して適用されます。この98万円を差し引いた実質価格を、同じ車体の内燃機関モデルと突き合わせると、次のようになります。
4ドアクーペの入口では、電気自動車の実質570万円に対してガソリンのCLA 180が598万円で、電気自動車が28万円安い。上位では実質677万円に対してCLA 220が687万円で10万円安い。シューティングブレークでも実質593万円対621万円で28万円、実質700万円対710万円で10万円。4組すべてで、電気自動車のほうが安く並びます。輸入プレミアムコンパクトで、同一車名・同一車体のBEVがガソリン版を実質価格で下回る例は、私の記憶では初めてです。
しかも自治体の上乗せを考えると差は広がります。webCGの報道によれば、東京都では約70万円の補助が加わり実質500万円台からになるとメーカーは説明しています。仮に70万円が加算されれば入口は実質500万円で、CLA 180との差は98万円に拡大します。ただし自治体補助の金額と要件は居住地により異なり、東京都のZEV車両購入補助金は2026年7月1日以降の登録分で上限が引き上げられているため、実際の交付額は必ず居住自治体の最新情報で確認する必要があります。
98万円という数字が上限130万円に32万円届かない理由
もう一つ見落とせないのが、98万円という金額そのものです。国のCEV補助金は2026年1月1日以降に新車新規登録される普通車の電気自動車で上限130万円まで引き上げられています。つまりCLAへの98万円は、上限に32万円届いていません。CEV補助金の交付額は車両価格で決まるのではなく、メーカーの脱炭素に向けた取り組み評価などを反映して車種ごとに個別に決定される仕組みだからです。
この構造は、7月29日の本欄で扱ったBYDの軽EV「ラッコ」でも同じでした。軽EVの上限58万円に対して交付額は15万円。上限額はカタログではなく天井であり、実際にいくら戻るかは車種ごとの数字を見るまで分からないということです。今回のCLAは、その天井の75%まで届いた比較的高い水準にあると読めます。
加えて、国の補助を受けた車両には保有義務が課されます。乗用車は4年間です。3年で乗り換える前提の人にとって98万円は「もらえない前提の金額」に近く、この点は後段のFP試算でも決定的に効いてきます。

📌 航続771kmの裏側、CHAdeMO最大100kW・46分という日本仕様の充電事情

公式リリースの充電時間の欄で、私は少し手が止まりました。電池の大きいCLA 250+が46分、電池の小さいCLA 200シューティングブレークが34分。数字が逆に見えますが、これは規格側の話です。
2026年7月29日に日本国内で開催された新型CLA電気自動車の発表会公式写真。内燃機関モデルの発売から20日という短い間隔で電気自動車が続き、MMAプラットフォームが1つの車体で2つのパワートレインを受け止める設計であることが、国内ラインアップの上でも形になりました。
525kmと771km、二段構えの航続距離をどう選ぶか
航続距離の差は電池容量の差そのものです。58kWhのCLA 200が525km、85.5kWhのCLA 250+が771km。電池容量は約1.47倍で航続は約1.47倍と、電費はほぼ同等です。ボディ形状の違いによる減少はクーペ対シューティングブレークで16km(250+)と12km(200)にとどまり、実用上ほぼ無視できる範囲です。
年間走行距離が1万km程度で、日常の充電を自宅で済ませられる人なら、525kmのCLA 200で足りる場面が大半でしょう。107万円を払って246km分を買い増す価値があるのは、月に何度も長距離を走り、途中の急速充電を避けたい人です。航続距離は保険であって、走行距離そのものではありません。ここを混同すると107万円の判断を誤ります。
欧州は800V・320kWの世界、日本はCHAdeMO最大100kWの世界
ここに日本固有の非対称があります。CLAが載るMMAプラットフォームは800Vアーキテクチャを採用しており、欧州ではこの系統で最大320kWの直流急速充電が可能です。参考として、7月29日に世界初公開された同じMMAの新型GLAは、320kWの充電器で10%から80%までを22分でこなすと公表されています。ところが日本仕様のCLAはCHAdeMO規格で最大100kW対応とされ、150kWタイプの充電器を使った自社検証でも10%から80%まで46分(CLA 250+・外気温27℃)です。
つまり同じ車が、欧州では22分前後の世界に生き、日本では46分の世界に生きます。原因は車両側の能力ではなく、国内の急速充電インフラが依拠する規格と出力の上限にあります。しかもe-Mobility Powerネットワークの急速充電器は30分で充電が終了する運用のため、公共充電で80%まで到達させるには、事実上2回並ぶ必要が出てきます。771kmという記録的な航続距離は、この不便さを回避するための保険としての価値が、欧州よりむしろ日本で大きいということです。
その代わり、装備には抜かりがありません。マルチソースヒートポンプはメルセデス初採用で、電動パワートレインの排熱・バッテリー熱・外気の3つを同時に使い、同等の暖房性能を一般的な補助ヒーターの約3分の1の電力で得られるとされます。急速充電の前には電池を最適温度域へ近づけ、充電性能の発揮にも寄与します。回生は最大200kWで、日常の減速のほぼすべてを回生だけで処理できるとされ、パドルで回生レベルの調整も可能です。保証面では5年10万kmの「EQケア」に加え、高電圧バッテリーは8年16万km、公共充電サービスは申込みから1年間無料という条件が付きます。
90年ぶりのフロントトランクとMB.OS、新世代を名乗る中身
実用面で目を引くのは、現代のメルセデス・ベンツとして初となる容量101Lのフロントトランクです。ブランドとしてフロントトランクを備えるのは1930年代の130(W 23)以来、約90年ぶりだと公式リリースは説明しています。シューティングブレークの荷室は455Lから最大1,290L、後席は40:20:40分割可倒式でEASY-PACKテールゲートを標準装備。外部給電機能(V2L)にも対応し、給電はMBUXの設定画面から残容量10%から50%まで10%刻みで設定できます。
デジタル面では自社開発OSの「MB.OS」を採用し、運転支援を担うコンピューターは最大254兆回/秒の演算処理能力を持ちます。第4世代MBUXのバーチャルアシスタントはChatGPT・Microsoft Bing・Google Geminiを1つに統合し、会話の文脈を保持する短期記憶機能を備えます。安全面ではメルセデスの同セグメント初となるセンターエアバッグを標準装備。新型CLAは欧州の「Car of the Year 2026」を受賞しており、メルセデスとしては1974年以来52年ぶり2度目の受賞です。Euro NCAPでも最高評価の5つ星に加え、2025年テスト全モデル中の最高評価となるBest Performerに選ばれています。
📌 たかまさはこう見ている

20年あまり新車発表を見てきて、同じ車名・同じ車体で電気自動車がガソリン車より実質安く並んだ輸入車は、記憶にありません。ただしこの安さは工場が作ったものではなく、制度が作ったものです。だから読み方には注意が必要です。
なぜこの並びが生まれたのか。私は2つの要因を見ています。1つはMMAという設計です。電気自動車を主軸に開発しながら内燃機関にも対応するプラットフォームは、1つの車体・1つのラインで両方を作れます。だからBEVの原価に「専用車体の開発費」が乗りません。もう1つは、48Vハイブリッドという内燃機関側の構成が決して安くないことです。新開発1.5Lエンジンに8速DCT一体型モーターと1.3kWh電池を組み合わせたCLA 180が598万円という水準にある以上、BEVの668万円との差は70万円しかありません。70万円の差なら、98万円の補助金が飲み込んでしまう。制度と設計が同じ方向を向いた結果の逆転です。
FP視点で5年間の保有コストを試算します。前提は年間1万km走行、ハイオク186円/L、自宅充電35円/kWhです。CLA 180はWLTC燃費20.3km/Lですから年間の燃料費は約9万2000円。CLA 200 with EQ Technologyは58kWhで525km、電費に換算すると約9.0km/kWhで年間の電気代は約3万9000円。年間差額は約5万3000円、5年で約26万5000円です。さらに自動車税種別割は、総排気量1,498ccのCLA 180が年3万500円に対し電気自動車は年2万5000円で、5年で約2万7500円の差。車両の実質差28万円を合わせると、5年保有で約57万円、電気自動車が有利という計算になります。
ただし引き算も正直に書きます。第一に、補助金98万円には4年間の保有義務が付きます。3年で手放す前提なら98万円は前提から外れ、逆転は消えて70万円の追い金に戻ります。第二に、自宅に充電環境がなければ、この試算の電気代は成立しません。公共の急速充電に頼るなら単価は上がり、しかもCHAdeMO最大100kWで80%まで46分、30分で終了する充電器では2回並ぶ必要が出ます。第三に、輸入BEVの5年後残価は実績データがまだ薄く、私自身11回の買い替えで痛感してきたとおり、買うときの得と手放すときの損は別勘定です。第四に、東京都などの自治体補助は金額も要件も居住地次第で、報じられている70万円は前提の1つにすぎません。
では、どう判断するか。自宅充電が用意でき、4年以上乗る前提を置ける人は、CLA 200 with EQ Technologyの実質570万円が現時点で最も合理的な選択肢です。マンションで充電環境がない人、3年程度で乗り換える人は、燃費20.3km/Lと確立された流通実績を持つCLA 180が堅実でしょう。そして忘れてはいけないのは、この逆転が制度の産物であるということです。補助額は車種ごとに決まり、上限も年度ごとに動きます。工場が決めた価格は数年変わりませんが、制度が決めた実質価格は登録日をまたぐだけで変わります。クルマの値段を読む技術は、いつの間にか「カタログを読む技術」から「制度の期限を読む技術」へ移っているのです。
🔍 この記事のファクトチェックについて
本記事に掲載した車両画像は、すべてメルセデス・ベンツ日本ニュースルーム(https://media.mercedes-benz.jp/)の公式リリースに掲載された報道用公式画像から引用しています。ヒーロー画像は『「CLA with EQ Technology」、「CLA Shooting Brake with EQ Technology」を発表』(2026年7月29日)のCLA 250+ with EQ Technology(欧州仕様車)、サブ画像は『「新型CLA」電気自動車発表会 オフィシャル写真』(2026年7月29日)の発表会公式写真です。引用は著作権法第32条に基づき、報道目的での適正な範囲内で実施しています。
