
車を渡したのに代金が振り込まれない。この相談が月平均22.3件に達し、買取トラブルが社会問題になった2023年の21.4件を上回りました。相談の総数は減っているのに、未払いだけが増えている点が今回の核心です。
「大手の不正が正されて、車の売却は安全になった」と思い込んでいませんか。
中古車買取の業界団体である日本自動車購入協会(JPUC)は2026年9月14日、記者懇談会を開き、消費者相談の最新データを示しました。グーネット自動車流通の9月24日付記事によれば、「車を渡したのに代金が振り込まれない」という代金未払いの相談は、2026年1〜8月の月平均で22.3件。ビッグモーター問題などで買取トラブルが社会問題化した2023年の21.4件を、すでに上回っています。
しかも相談室への入電の総数は、2024年の月平均302.1件から2026年1〜8月は280.5件へ約7%減っています。全体は落ち着いたのに、売り手にとって最も被害の重い未払いだけが増えている。直近3カ月の相談の57.4%は協会に加盟していない非会員の案件で、協会は「指導できない」と認めています。
本記事では、JPUCが示した相談データの中身、中古車販売店の倒産統計との関係、そして「高く買います」の上乗せ額と未払いリスクの損益分岐を整理し、最後にFP視点で売り手が取るべき自衛策を検証します。

📌 車買取の代金未払いが月22.3件、JPUC相談データが示す2023年超えの実態

相談の総数はピークの2024年より約7%少ないのに、未払いは2023年を超えました。件数の多さではなく、被害の「重さ」が変わったと読むべきデータです。
月22.3件は年換算で約268件、相談の12.6件に1件が未払い
JPUCは「JPUC車売却消費者相談室」という窓口を運営しています。記者懇談会で井上貴之代表理事が示したデータによれば、相談室への入電は2024年が月平均302.1件、2025年が260.8件、2026年は1〜8月で280.5件と再び増加に転じました。月別では3月319件、6月304件、7月340件と300件を超える月が相次ぎ、7月は前年同月比131.3%です。
このうち代金未払いの相談は、2026年1〜8月の月平均で22.3件。2023年の21.4件を0.9件、率にして約4%上回ります。22.3件を12カ月に引き直すと年換算で約268件、相談総数280.5件に対する比率は約8.0%で、およそ12.6件に1件が「代金が入らない」という内容になります。
注目したいのは非対称です。相談の総数は2024年のピークから7.1%減ったのに、未払いは社会問題化した年を超えました。キャンセルを巡る相談も続いており、2026年6〜8月はキャンセル拒否が月平均10.1件、キャンセル違約金は月20件前後で高止まりしています。違約金やキャンセルは金額に上限のある争いですが、未払いは車の価値がまるごと失われる争いです。
相談の57.4%が非会員案件、協会が「指導できない」構造
では、未払いを起こしているのはどんな事業者なのか。JPUCによれば、2026年6〜8月の相談のうち会員の買取事業者に関するものは22.8%にとどまり、非会員の案件が57.4%を占めました。非会員は会員の約2.5倍です。JPUCは自主規制団体ですから、加盟していない事業者にはルールを守らせる権限がありません。相談の6割近くが、そもそも指導の届かない場所で起きています。
協会の足元も盤石ではありません。記事によれば相談対応の費用は買取事業者が74%、一括査定などの媒体事業者が25.9%を負担しており(2026年6〜8月)、2025年度は12カ月のうち約9カ月が赤字でした。井上代表理事は、相談件数のシェアに応じて媒体事業者も費用を負担すべきだと訴えています。会員の適正さを示す数字もあります。JPUCのモデル約款と同等以上の内容で契約する比率は97.5%、利用台数は令和7年度に初めて100万台を超えました。ルールを守る側は守っている。問題はその外側にあります。
渡した車がオークションを経て他店の店頭へ、被害回復が難しい理由
未払いが深刻なのは、車を取り戻すことも難しいからです。懇談会では、代金が支払われないまま引き取られた車がオートオークションで落札され、別の中古車販売店の店頭に並んでいた事例が報告されました。被害者が車台番号の一致する車を見つけた時点で、名義変更はまだ済んでいなかったといいます。
販売店側は返却を模索し、弁護士から契約解除の申し入れもあったものの、オークション会場が落札代金を回収できなければ車両を戻せない可能性が指摘され、返金や返還の結末は懇談会の時点で示されませんでした。車と書類を渡した瞬間に、車は流通の川に乗って、事情を知らない第三者の手に渡っていきます。代金の請求は民事の争いになり、相手が倒産していれば回収の見込みはさらに薄くなります。
井上代表理事は手口にも言及しています。名義上問題のない人物に会社を設立させて媒体に登録し、最初の数台だけ高値で買い取って信用を作り、換金できる車を集めて代金を払わない、というものです。問題のある事業者への媒体の対応にも差があり、数年前に取引を止めた媒体がある一方、2026年9月まで掲載が残っていた媒体もあったとされています。

📌 中古車販売店の倒産101件と未払いリスク、上乗せ5万円の損益分岐は3.9%

入金まで5日から2週間。その間、売り手は125万円前後を無担保で貸しているのと同じ状態です。貸す相手の利益率が2.1%まで落ちていることを、査定額の比較表は教えてくれません。
2025年の倒産は101件、88.1%が資本金1,000万円未満
井上代表理事は未払い増加の背景として、意図的な詐欺だけでなく、中古車事業者の倒産増加と小規模専業店の経営難を挙げています。大手が広告とAIに投資してシェアを伸ばす一方で、資金繰りに行き詰まった事業者が消費者被害を生む、という構図です。
この見立ては統計と一致します。東京商工リサーチが2026年1月20日に公表した集計では、2025年の中古車販売店の倒産は101件で前年比29.4%増。過去10年で初めて100件台に乗りました。101件のうち89件、88.1%が資本金1,000万円未満で、業界の利益率は2023年の3.0%から直近は2.1%へ低下しています。仕入れ価格の高騰と在庫不足で、車を高く買うほど利幅が消える状況です。
消費者側の統計も動いています。国民生活センターの公表では、中古自動車に関する相談は2023年度9,034件、2024年度7,059件、2025年度8,642件。いったん減った相談が2025年度に22.4%増え、JPUCの入電と同じ向きに戻っています。2025年に破産した東京都板橋区の買取・販売店カートップは、日刊自動車新聞によれば負債総額3億8,160万円、債権者215人でした。単純平均で1人あたり約177万円です。
上乗せ5万円と全損125万円、未払い確率3.9%で期待値は逆転する
ここで試算をします。売り手が比べているのは多くの場合、査定額の数万円の差です。一方で、未払いが起きたときに失うのは車の価値そのものです。業者オークション最大手USSの2026年8月の平均成約単価124.8万円を売却額の目安に置き、確実に入金されるA社と、それより高い額を提示するが未払いリスクのあるB社を比べます。
B社で受け取れる金額の期待値は「(売却額+上乗せ額)×(1−未払い確率)」です。これがA社の売却額を下回る境目は「上乗せ額÷(売却額+上乗せ額)」で求められます。上乗せが5万円なら境目は3.9%。つまり約26回に1回でも未払いが起きる相手なら、5万円高い提示は期待値で負けています。
この試算は単純化したものです。実際には倒産手続きの配当で一部が戻る可能性があり、損失は全額とは限りません。逆に、125万円を失う痛みは5万円を得る喜びより重いので、現実に許容できる確率は3.9%よりさらに低くなります。なお、相談の約8%が未払いというJPUCの数字は相談の内訳であって、取引全体の未払い率ではありません。両者を混同しないことが大切です。
同時履行・エスクロー・契約書、売り手ができる3つの自衛策
JPUCは2026年7月16日、「愛車の売却(買取)トラブル急増に伴う安全な取引方法のご案内」を出しました。柱は2つです。1つ目は車両の引き渡しと代金の支払いを同時に行う同時履行。JPUCの解説では、買取代金は引き渡しのおおむね5日〜2週間後に振り込まれるのが一般的とされますが、協会は、車両や書類を先に渡して代金が後日になる契約は事業者の経営状況によって大きなリスクになると明記しています。
2つ目は、第三者が代金を預かるエスクローサービスです。買取店が先に代金を預け、車両と書類の引き渡しが確認されてから売り手に送金される仕組みで、JPUC自身も倒産時の補償と合わせて導入を検討しています。民間では、MOTAが「あんしん決済」を2026年3月17日にリニューアルし、車両の受取連絡後、最短2営業日以内の送金をうたっています。
この2本柱に加えて、3つ目に確かめたいのが契約書です。支払予定日と支払方法が明記されているか、事業者の所在地と連絡先が確認できるか、支払期限が不自然に長くないか。JPUCによれば、媒体のなかには1週間以内の支払いを義務付けているところもあれば、期限を定めていないところも多いのが現状です。売り手自身が期限を確かめるほかありません。
📌 たかまさはこう見ている

2023年の問題は「大手の不正」でした。2026年の問題は「小さな店の資金繰り」です。原因が入れ替わったのに、売り手の被害だけは同じ形で残っている。ここに業界の自浄だけでは埋まらない穴があります。
今回のデータで私が最も重く見ているのは、相談の57.4%が非会員案件だという点です。業界団体がルールを整え、会員の97.5%がモデル約款以上の内容で契約するところまで来ても、団体の外にいる事業者には何も届きません。JPUCは悪質事業者の情報を媒体間で共有したいと考えていますが、以前に公正取引委員会へ相談した際は独占禁止法に抵触するとして退けられ、法的な整理をやり直して改めて許可を求める方針だといいます。買取広告の公正競争規約も、策定まで2〜3年かかる見通しです。制度が追いつくまでの時間を、売り手は自分で埋めるしかありません。
私はこれまで11台の車を買い、その都度、前の車を手放してきました。振り返ると、査定額の比較には何時間もかけたのに、入金日を契約書で確かめた記憶がない取引もあります。当時は問題になりませんでしたが、利益率2.1%の業界に125万円を2週間預けるという取引の中身は、査定額が何万円高いかよりもはるかに大きな変数です。5万円の上乗せは、約26回に1回の未払いで消えます。高値の理由を説明できない提示は、得ではなく危険信号として読むのが妥当です。
では、どう動くか。まず代金と車の引き渡しを同時にできるかを聞く。できないなら、エスクローに対応した売却先を選ぶ。どちらも難しければ、支払予定日が1週間以内で契約書に書かれている相手に絞る。この3段階で、未払いのリスクは大きく下げられます。FP視点で言えば、車の売却は家計にとって数少ない「まとまった現金が入る取引」であり、利回りより元本の保全を優先する場面です。高く売る技術より、確実に受け取る技術のほうが、いまは値打ちがあります。
