「タイって日本車の国でしょ?」。そう思っている方は多いはずです。
しかし、バンコクモーターショー2026の最終結果は、その常識が完全に崩れたことを示しています。
この記事では、受注台数の3年間の推移を追い、日本車のASEANシェア低下が国内の中古車相場やリセールバリューにどう波及しうるのかを、FP視点で分析します。
📌 バンコクモーターショー2026閉幕。BYD 1.7万台でトヨタ超え、上位10社中8社が中国勢
会場受注13万台、前年比72%増の異常値
2026年3月25日から4月5日まで開催された第47回バンコク国際モーターショーが閉幕し、主催者が最終実績を発表しました。会期中の自動車受注台数は13万2,951台、来場者数は約180万人。前年(2025年)の7万7,379台から72%の増加という異例の伸びです。
注目すべきはブランド別のランキングです。首位はBYDの1万7,354台。トヨタは1万5,750台で2位に転落しました。しかし、衝撃はこの「1位と2位の入れ替わり」だけにとどまりません。
トップ10の「国籍比率」が完全に逆転した
最終ランキングの全容は以下の通りです。
| 📊 バンコクモーターショー2026 受注台数ランキング(主催者発表) ・1位:BYD 17,354台(🇨🇳) ・2位:トヨタ 15,750台(🇯🇵) ・3位:OMODA JAECOO 15,088台(🇨🇳) ・4位:MG 10,537台(🇨🇳) ・5位:DEEPAL+NEVO 8,573台(🇨🇳) ・6位:ジーリー 7,811台(🇨🇳) ・7位:チェリー 7,509台(🇨🇳) ・8位:GWM 6,819台(🇨🇳) ・9位:GAC 6,287台(🇨🇳) ・10位:ホンダ 5,907台(🇯🇵) |
日本メーカーはトヨタとホンダの2社のみ。中国ブランドが8社を占めるという結果です。2023年にはトップ10の半数が日本勢だったことを考えると、わずか3年で勢力図が完全に書き換えられたことになります。
3年間の数値推移が示す「加速する逆転」
この変化は突然起きたものではありません。バンコクモーターショーの受注台数を3年分並べてみると、構造的なシフトであることがわかります。
| 📊 バンコクモーターショー受注台数の推移 ・2024年:総数53,438台/トヨタ首位(8,540台)BYD 2位(5,345台)/日系・中国系が5社ずつで拮抗 ・2025年:総数77,379台/BYDが初の首位(9,819台)トヨタ2位(9,615台)/中国全体41,158台 vs 日本29,753台 ・2026年:総数132,951台/BYD首位(17,354台)トヨタ2位(15,750台)/トップ10中、中国8社・日本2社 |
2024年の「拮抗」から2025年の「僅差逆転」、そして2026年の「圧倒的差」へ。3年間の推移を見ると、減速するどころか加速していることが読み取れます。
📌 「タイの話」で終わらない。日本車のASEANシェア低下が国内中古車相場に効いてくる構造
タイは日本の中古車にとって「需要の受け皿」だった
タイは東南アジア最大級の自動車市場であり、かつては日本車のシェアが9割を超えていました。このシェアの高さは、新車だけでなく中古車の世界にも影響を及ぼしています。日本からASEAN諸国への中古車輸出は年間数十万台規模にのぼり、タイ周辺国を含む東南アジアは重要な仕向け先です。
現地で日本車の人気が高ければ、中古車の海外需要が維持され、国内の買取相場も底堅く推移します。逆に、現地のユーザーが中国製EVに流れれば、日本からの中古車輸出需要は構造的に細っていく可能性があります。
中国EVの「価格破壊」がリセールバリューの前提を揺るがす
今回のバンコクモーターショーで中国勢が受注を伸ばした最大の要因は、価格です。各社が大幅な値下げキャンペーンを展開し、60万バーツ(約260万円)以下の廉価EVが消費者の関心を集めました。中東情勢の緊迫化に伴うガソリン価格の上昇も、EVへの乗り換えを後押ししています。
この「低価格×EV」のトレンドは、日本車のリセールバリューを考えるうえで無視できません。ASEANでの日本車人気が維持されなくなれば、海外バイヤーの引き合いが減り、国内の中古車オークション相場にも下方圧力がかかる可能性があります。特にコンパクトカーやセダンなど、中国EVと直接競合するセグメントは要注意です。
ただし「受注=実販売」ではない点に注意
バンコクモーターショーの受注台数には、注意が必要な点もあります。モーターショーでの受注は自己申告制であり、ローン審査を通過して実際の納車に至る台数はこれより少なくなります。2025年のデータでも、ローン審査通過率に関する正式な発表は主催者からなされていません。
また、タイでは中国メーカーによるEV購入後のリセール急落や、アフターサービス網の未整備といった問題も報じられています。受注の数字だけで「日本車は終わった」と断じるのは早計です。しかし、トレンドの方向性は明確であり、構造的なシフトが進んでいることは数字が証明しています。
たかまさはこう見ている
20年以上、自動車業界を取材してきた立場から率直に言えば、今回のバンコクモーターショーの数字は「いずれ来る」と言われていた転換点が、想定より早く来たことを示しています。
私がFP記者として注目するのは、この変化が国内の車の「売り時」にどう影響するかです。ASEANにおける日本車の需要低下は、中古車の海外輸出価格に徐々に反映されます。とりわけコンパクトカーやハイブリッドセダンの中古車を所有している方は、「海外からの引き合いが強いうちに動く」という選択肢を検討する価値があります。
一方で、SUVやランドクルーザーのような車種は、中国EVとは競合関係にないため、直接的な影響は限定的です。すべての日本車が一律に影響を受けるわけではなく、車種ごとに状況は異なります。数字とデータで自分の車のポジションを見極めることが、後悔しない判断につながります。
「海外の話だから関係ない」ではなく、「海外の需要変化が、国内の査定額に跳ね返る」。この構造を知っているかどうかで、売却のタイミング判断は大きく変わります。

