
新型エルグランドの「AUTECH」が標準モデルに先駆けて公開されました。注目は4種同時展開という戦略の徹底ぶりです。
「フルモデルチェンジ車のカスタムは、車本体の発表より後に出てくるもの」。そう思っていませんか。
日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)は2026年5月8日、今夏発売予定の新型エルグランドをベースにした「AUTECH」のデザインを先行公開しました。同時に「AUTECH LINE」「VIP」「ステップタイプ」の3モデルも公開し、特装4タイプを一括で見せる異例の運用に踏み切っています。
新型エルグランドは2010年登場のE52型から16年ぶりの全面刷新となる4代目で、2025年10月のジャパンモビリティショー2025で初公開されました。エルグランド「AUTECH」としては2020年10月設定の初代から数えて2代目、シリーズ第6弾としての位置づけになります。
この記事では、FP(ファイナンシャルプランナー)の視点から、特装4タイプの戦略意図と価格レンジ、そして4代目エルグランドにおいてどのタイプを選ぶべきかの判断軸を整理します。
📌 5月8日先行公開された4タイプの中身。AUTECHは2代目に進化、シリーズ第6弾エルグランドが完成形

標準モデルに先駆けて特装4種を出す運用は珍しいです。需要層を一気に押さえに来た日産の戦略が透けて見えます。
AUTECH 2代目:湘南・茅ヶ崎の海をモチーフにしたデザインの中身
新型エルグランド「AUTECH」は、AUTECHブランドのフラッグシップとしての位置づけを強化しています。AUTECHブランドはノート、エクストレイル、リーフ、セレナ、ルークスに続くシリーズ第6弾で、初代AUTECH(2020年10月設定)から数えて2代目への刷新となります。
エクステリアでは海面の煌めきを表現したドットパターンのフロントグリルを大きく配置し、海を進むボートの後方に生じる「航跡波」をモチーフにしたシグネチャーLEDを採用しました。波打ち際の白波をモチーフにしたメタル調フィニッシュパーツをボディ下部に装備し、低重心とワイドスタンスを演出。ダーク金属調塗装の専用アルミホイールでスポーティさを高めています。
インテリアはブラック基調にAUTECHブランドを象徴するブルーステッチを配し、シートには新開発のプレミアムナッパレザーを初採用。漣(さざなみ)からインスパイアされた専用キルティングデザインで、現行AUTECHの本革シートからさらに質感を引き上げています。湘南・茅ヶ崎というAUTECHブランド発祥の地のストーリーが、車両の隅々にまで埋め込まれた仕立てです。
同時公開された3タイプ。左から「AUTECH LINE」「VIP」「ステップタイプ」。それぞれ異なる需要層を狙ったキャラクター付けがされています。
出典:日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社『新型エルグランド「AUTECH」のデザインを先行公開』(2026年5月8日)
AUTECH LINE・VIP・ステップタイプ。3タイプの戦略的な役割分担
AUTECH LINEはオーセンティックなスポーティスタイルを求める層に向けたモデルで、ダークメタルグレーのフロントグリル・専用フロントプロテクター・専用アルミホイール・メタル調ドアミラーを装備します。シート地は包まれる心地よさを重視した「テーラーフィット」をブラックで統一。AUTECH(2代目)の青ステッチ+ナッパレザーに対し、「AUTECH LINEは黒で締める」という明確な切り分けです。
VIPはショーファーカーニーズに応えるモデルで、ダークメタルグレーの専用グリルと18インチ専用ホイール、VIP専用エンブレム、装飾と照明機能付きのオートステップを装備。インテリアはVIPの名に相応しいプレミアムナッパレザーシートに加え、15.6インチの後席専用モニターと読書灯を標準装備しました。現行VIPが596.5万円〜789万円で展開されてきた実績から、新型でも法人需要・役員送迎用途を狙った最高価格帯になることが確実です。
ステップタイプは乗降の物理的な負担を軽減するモデル。助手席ドアもしくは助手席側スライドドアの開閉と連動して、ロングステップが展開・格納します。助手席と助手席側スライドドアから乗降する人が同時に使えるロングステップを採用し、ステップ下の路面も照らすイルミネーションを装備しました。高齢の親世代との同乗が増えたファミリーや、足腰に不安のある層への対応で、現行ステップタイプは439.7万円〜の価格帯となっています。
シリーズ第6弾エルグランドが完成させた「特装フルライン化」の意味
NMC(日産モータースポーツ&カスタマイズ)の現行ラインアップを見ると、エルグランドだけがAUTECH/ステップタイプ/VIP/アーバンクロムの4種をすべて揃える唯一の車種です。セレナはAUTECH/AUTECH LINE/防水シート/マルチボックス/マルチベッド/ステップタイプと多彩ですが、VIPは設定されていません。VIPはエルグランド固有の「最上級ショーファー」ニーズを掴む特装で、現行で6年間販売されてきた実績がブランド資産となっています。
新型ではVIPに加えてAUTECHにLINE(廉価版)が新設されました。これはセレナで先行している「AUTECH本流+AUTECH LINEで価格帯を二段化する戦略」をエルグランドに横展開した形です。プレミアムミニバンはアルファード/ヴェルファイアに長年市場を取られてきた経緯がありますが、特装4タイプ同時展開は、複数の需要層を一挙に取り込む布陣として読み取れます。

📌 16年振り全面刷新ベースで読み解く、特装4タイプの選択軸とFP視点の判断フレーム

特装はカッコいいで終わらせず、何にどう使うかでタイプを選びます。家族構成と将来の売却まで含めて考えるべきです。
4代目エルグランドのスペックと、現行AUTECH価格から導く新型予想レンジ
4代目エルグランド(標準モデル)は4,995mm×1,895mm×1,975mmのボディサイズで、現行3代目(4,965×1,850×1,815)と比べて30mm長く・45mm広く・160mm高くなりました。アルファード(4,995×1,850×1,945)を全幅で上回る、文字どおり日産史上最大のミニバンです。
パワートレインは第3世代e-POWERの「5-in-1」構造(モーター・発電機・インバーター・減速機・増速機を一体化)に1.5L発電専用エンジン「ZR15DDTe」を組み合わせ、駆動方式は電動四輪制御技術「e-4ORCE」による電動4WDが標準です。プラットフォーム刷新と遮音性能の徹底追求、状況に応じてサスペンション減衰力を変更するインテリジェントダイナミックサスペンション(IDS)の採用で、走行性能と快適性能の大幅な底上げが図られています。
現行E52型のAUTECHが520.5万円〜、VIPが596.5万円〜789万円〜という価格帯を踏まえると、新型のe-POWER化と装備強化を加味し、新型AUTECHは540万〜570万円台、新型VIPは650万〜850万円台のレンジが現実的な予想線になります。価格・諸元の正式発表は2026年夏の発売直前に行われる見込みです。
シリーズ全体のAUTECH価格帯から見た、新型エルグランドAUTECHのポジション
NMC現行ラインのAUTECHシリーズで最も高額なのは、リーフAUTECHの616.2万円〜です。現行エルグランドAUTECHはこれに次ぐ520.5万円で、ガソリン車では最上位の価格帯となっています。
新型エルグランドはe-POWER化で電動駆動車の仲間入りをするため、リーフAUTECHとの価格差が縮まる可能性があります。「電動化=高コスト化」と「ボディ拡大=原価上昇」が同時に進行するため、新型AUTECHは現行から30万〜50万円の値上げ圧力を内包しています。新型VIPは現行最高789万円から800万円台への押し上げも視野に入る水準です。
4タイプどれを選ぶか。FP視点の3つの判断フレーム
新型エルグランドの特装4タイプは、装備差ではなく「使い方」で選ぶべき設計になっています。判断フレームを3つに整理します。
フレーム①:誰が乗るかで選ぶ。主に運転するのが自分で家族を乗せるならAUTECH(プレミアムスポーティの本流)、自分は後席に座って運転手を雇う立場ならVIP(15.6型モニター・読書灯)、両親など足腰に不安がある同乗者がいる場合はステップタイプが第一候補です。装備差ではなく主用途で先にタイプを決め、その後に標準モデルとの価格差を判断するのが筋です。
フレーム②:5年後の残価で考える。特装は標準モデルより新車価格が高い分、絶対額の値落ちも大きくなりがちです。ただしAUTECH本流(ナッパレザー+シグネチャーLED)とVIP(15.6型モニター)は、それぞれ「個性が明確な装備」を持つため、中古市場で「AUTECH指名買い」「VIP指名買い」のニーズが残ります。一方、AUTECH LINEは標準モデルとの差別化が小さいため、リセール時に区別されにくいリスクがあります。
フレーム③:アルファード対抗の差を冷静に見る。アルファードのエクゼクティブラウンジが872万円〜という現状で、エルグランドVIPが650万〜850万円台に収まれば、ショーファーニーズで価格優位を取れます。一方でAUTECH本流はアルファードAエグゼクティブクラスとの価格対抗が焦点となります。値引きやリセールを含めた「総コスト」で見ると、エルグランドAUTECHの方が日産車として残価が硬めに出る可能性は十分あり得ます。
たかまさはこう見ている

標準より先に特装を見せる戦略は、日産が「カスタムから売る」覚悟を決めた証拠です。アルファード市場への本気の挑戦が始まります。
20年以上自動車業界を取材してきた立場から見ると、新型エルグランドの「標準モデル発表前の特装先行公開」は、明らかに通常運用ではありません。発売は今夏で、標準価格・諸元の公表もまだですが、その前に特装4種を一気に出す。これは「カスタムカーから売り始める」覚悟の表明であり、アルファード/ヴェルファイアに長らく譲ってきたプレミアムミニバン市場で、複数需要層を同時に押さえに行く戦略の現れです。
FPの視点で見ると、特装4タイプで気になるのは「自分の用途と装備が噛み合わない選択」のリスクです。私自身、11回の買い替え経験のなかでカスタムカーを2回選びましたが、装備の華やかさに惹かれて買うと5年後の売却時に値落ちが想像以上に大きくなることが多いと痛感しました。装備の主役(AUTECH本流ならナッパレザー+シグネチャーLED、VIPなら15.6型モニター、ステップタイプなら乗降ステップ)を「自分が日常で本当に使う装備か」で問い直すことが、特装選びの一番の防壁になります。逆に主役装備が刺さるなら、中古市場で「指名買い」される側に回れるため、リセールで標準モデル相当の硬さを保てる場合もあります。
標準モデルの正式価格・諸元の発表は2026年夏の発売直前と見られます。先に特装4種が出た以上、6月〜7月に標準モデルの価格レンジが明らかになり、そこから逆算してAUTECH/VIPの上乗せ額が読めるようになるはずです。今焦って予約する局面ではなく、夏の価格発表を見届けてから、ベース車込みの総コストで判断するのが合理的です。プレミアムミニバンの主導権争いは、価格表が並んだその瞬間に始まります。

