
「国産ブランドのSUVなら右ハンドルで当然」。そう思い込んでいませんか。日産ムラーノが12年ぶりに日本へ帰ってきましたが、用意されたのは左ハンドル・4WDの1グレードのみ。米テネシー州生産の796.4万円です。「日産なのに輸入車」という割り切りが何を意味するのか、FPの目線でほどいていきます。
「国産ブランドのSUVは、右ハンドルで当たり前」。そう思い込んでいませんか。
日産は2026年6月3日、米国生産のミッドサイズSUV「ムラーノ」を日本市場に再導入し、同日から注文受付を開始しました。2015年の国内販売終了から約12年ぶりの復活で、用意されたのは4WD「SV」の1グレードのみ。価格は796万4000円、そしてハンドルは左ハンドルだけです。「日産のSUV」でありながら、中身は紛れもない輸入車という、ねじれた一台が生まれました。
背景にあるのは、2026年2月に国土交通省が創設した米国製乗用車の認定制度です。米テネシー州スマーナ工場で生産されたムラーノは、この制度を活用して日本に上陸しました。米国でのベース価格はおよそ4万ドル台前半(約600万円前後)。それが日本では796.4万円に設定された差額の中身が、この記事の入り口です。
この記事では、FP(ファイナンシャルプランナー)の視点から、12年ぶり復活ムラーノの装備と価格の中身、「左ハンドルのみ・1グレード」という割り切りが所有後に効いてくるコスト、そして同じ認定制度で導入されたカムリ逆輸入との設計思想の違いまでを検証します。
日産が2026年6月3日に日本受注を開始した新型「ムラーノ」。米テネシー州スマーナ工場で生産される4代目で、薄型LEDヘッドライトと左右に広がるリアコンビランプ、20インチアルミを備えた全幅1980mmのワイドなプロポーションが特徴です。日本仕様は4WD「SV」の1グレード・左ハンドルのみで、価格は796万4000円。

📌 12年ぶり復活ムラーノ・796万円の中身と国交省の新制度

ポイントは「日産が日本で新車を出した」のではなく「日産が米国で売っている車を、新制度を使って日本に持ち込んだ」という構図です。だから右ハンドルもグレード展開もありません。ここを取り違えると、価格の評価を誤ります。
なぜ「左ハンドルの日産SUV」が誕生したのか
今回のムラーノ導入を理解する鍵は、車そのものよりも「導入の仕組み」にあります。日産は2026年2月に国土交通省が創設した米国製乗用車の認定制度を活用し、米テネシー州のスマーナ工場で生産されている4代目ムラーノを日本へ持ち込みました。これは日本独自の保安基準への適合試験を1台ごとに行う従来の輸入とは異なり、米国の安全基準で造られた車をまとめて型式認定できるようにした新しい枠組みです。
この制度を使うと導入のハードルは大きく下がりますが、引き換えに「米国仕様のまま」に近い形での導入が前提になります。ムラーノが左ハンドルのみ・4WD「SV」の1グレードのみで登場したのは、右ハンドル化や日本専用グレードの設定といった大掛かりなローカライズを行わないことで、制度のメリットを最大限に活かす設計だからです。「日産のSUVなのに左ハンドル」という一見奇妙な組み合わせは、偶然ではなく制度の必然です。
ムラーノはもともと、2004年から2015年まで日本でも販売されていた日産の上級SUVでした。当時は右ハンドルの直4・V6エンジン車が用意されていましたが、その後は海外専用モデルへ移行。今回の4代目は2024年に米国で発表された新世代で、日本市場としては約12年ぶりの再会となります。ただし「同じ名前の、別の入り方をした車」と捉えるのが正確です。
796.4万円に含まれるパワートレインと装備
価格の評価に入ります。日本仕様ムラーノのパワートレインは、日本初導入となる2.0リッターのVCターボエンジン(KR20DDET)です。日産独自の可変圧縮比技術により、最高出力180kW(245PS)、最大トルク352N・mを発生し、9速オートマチックトランスミッションと組み合わせます。可変圧縮比とは、走行状況に応じてエンジンの圧縮比を連続的に変える技術で、低負荷では燃費寄り、高負荷では出力寄りに切り替えることで、ダウンサイジングと加速性能を両立させる狙いがあります。駆動方式は4WDで、周波数感応型ダンパーと電動パワーステアリングの専用チューニングが施されています。
装備面では、20インチの大径アルミホイール、12.3インチの統合型ディスプレイを水平に2画面配置したインテリア、そして「プロパイロット」やインビジブルフードビュー、フロントワイドビューを含む360°セーフティアシストを標準装備します。ボディカラーはターコイズブルー、スーパーブラック、プリズムホワイトの3色。装備をフルに積んだ1グレードを「迷わず買える1本」として差し出す、輸入車らしい割り切った売り方です。
ここで押さえておきたいのが米国価格との差です。4代目ムラーノの米国でのベース価格はおよそ4万ドル台前半(為替次第でおおむね600万円前後)とされてきました。それが日本では796.4万円。単純な為替換算では説明しきれないこの差には、輸送費・認定コスト・国内サービス網の維持費に加え、円安と装備の上位設定が乗っています。「米国で割安なムラーノ」が「日本では割高に見える」のは、車の価値が下がったからではなく、海を越えるコストが価格に積み上がっているからです。

📌 「左ハンドル・1グレード」の割り切りは誰に効くのか

左ハンドルは「個性」として歓迎する人もいれば、毎日の運転で負担に感じる人もいます。問題は、その負担が売るときの値段にも表れる点。買う前に「自分はどちら側か」を見極めるのがFP的な作法です。
サブ画像:内・外装に表れる「米国仕様そのまま」
ワイドで存在感のあるプロポーションを持つ新型ムラーノ。全長4900mm・全幅1980mm・全高1725mmというLサイズSUVで、米国市場での評価をそのまま持ち込んだ大柄なボディが特徴です。室内は12.3インチ2画面ディスプレイを水平配置し、米国仕様に近い構成のまま日本へ導入されています。
カムリ逆輸入との違い:同じ制度でも「捨てたもの」が逆
同じ国交省の認定制度を使った輸入車として、6月初旬に話題となったカムリの逆輸入があります。どちらも「米国で生産された日本ブランド車を、新制度で日本に持ち込む」という同じ枠組みです。しかし、設計思想は対照的です。
最大の違いはハンドル位置です。カムリ逆輸入が右ハンドルを用意して「日本でも普通に使える1台」を志向したのに対し、ムラーノは左ハンドルのまま導入し、「米国そのものを味わう輸入車」という性格を選びました。同じ制度から生まれながら、一方は日本の日常へ寄せ、もう一方は割り切って米国らしさを残す——制度は同じでも、メーカーがどこを残しどこを捨てたかが、まるで逆になっているのです。これは「米国製認定制度=右ハンドル化して国産同様に売るもの」という思い込みを覆す、重要な分岐点です。
所有後に効いてくる「左ハンドル・1グレード」のコスト
FP(ファイナンシャルプランナー)の視点で、所有後に効いてくるコストを整理します。まず左ハンドル。高速料金所のETCレーンやコインパーキングの発券機、ドライブスルーなど、日本のインフラは右ハンドル前提で設計されているため、運転席から手が届かない場面が日常的に発生します。同乗者がいれば解決する場面も多いものの、一人で乗る時間が長い人ほど負担が積み重なります。
次に全幅1980mmという約2mのボディ。機械式立体駐車場の幅制限(一般に1850〜1950mm前後)に収まらないケースがあり、都市部では駐車場所そのものが選択肢を狭めます。維持費の面では、自動車税は2.0Lエンジンのため年36,000円(2026年時点の標準的な区分)と、排気量だけ見れば高額ではありません。むしろ重量と大径タイヤに起因するタイヤ交換費や、左ハンドル輸入車を扱える整備拠点の確保が、長期保有での見えにくいコストになります。
リセールバリューには二面性があります。1グレード・装備固定なので中古市場での個体差が小さく、相場が読みやすいのは利点です。一方で、左ハンドルは中古の買い手を限定するため、同条件の右ハンドル車に比べて売却時の母数が小さくなりがちです。「買うときの割安感」と「売るときの売りにくさ」がセットになっているのが、この一台の本質です。
たかまさはこう見ている

私はこのムラーノを「割安な日産SUV」ではなく「ナンバーが日産で出せる輸入車」として見ています。評価軸を国産車に置くと割高に映りますが、輸入左ハンドル車に置けば、装備込み796万円は十分に説明のつく価格です。
私はこれまで11台の車を乗り継いできましたが、車選びで最も後悔が残るのは「価格の安さに引かれて、毎日の使い勝手を妥協したとき」でした。ムラーノの796.4万円という価格は、米国での割安なポジションを知っていると一見高く見えますが、海を越える輸送・認定・サービス網のコストを積めば、輸入車として不自然な数字ではありません。問題は金額の絶対値ではなく、「左ハンドルと1グレードという割り切りを、自分が受け入れられるか」に尽きます。
ここで効いてくるのが、同じ国交省の認定制度から生まれたカムリ逆輸入との対比です。カムリは右ハンドルを用意して「日本の日常に溶け込む輸入車」を選び、ムラーノは左ハンドルのまま「米国らしさを残す輸入車」を選びました。同じ制度が、メーカーの判断次第で正反対のキャラクターの車を生み出している。これは、米国製乗用車の認定制度が単なる「安く輸入する裏口」ではなく、メーカーが日本市場とどう向き合うかを映す鏡になり始めた、ということです。買う側も「制度を使った車だから割安なはず」という先入観を一度外し、その一台が何を残し何を捨てたのかを個別に見る必要があります。
結論として、ムラーノが向くのは、左ハンドルを負担ではなく個性として楽しめて、駐車環境に余裕があり、人とかぶらない大柄なSUVを「迷わず1グレード」で手に入れたい人です。逆に、毎日一人で料金所をくぐり、機械式駐車場を使い、数年で乗り換える前提の人には、右ハンドルの国産・輸入SUVのほうが総合的なコストは低く収まります。制度が開いた「日産で買える輸入車」という新しい選択肢は、安さで選ぶものではなく、割り切りを楽しめる人のための一台です。

