
ATTO 3 EXの電池は74.88kWh、bZ4X Zは74.69kWhとほぼ同じです。値札はATTO 3 EXが112.2万円安いのに、補助金を引くと2.8万円高くなる。価格表だけ見ていると、この逆転は見えません。
2026年9月29日に全国のBYD正規ディーラーで発売された新型「BYD ATTO 3 EX」。2023年1月にBYDの日本市場における乗用車第1弾として導入されたATTO 3を大幅に刷新し、駆動方式をFWDからRWDへ変更、AWDモデルも新たに設定しました。
出典:BYD Auto Japan株式会社 プレスリリース『新型「BYD ATTO 3 EX」』(2026年9月29日・PR TIMES)
「中国製のEVは、補助金を差し引いても国産EVより安い」。そう思い込んでいませんか。
BYD Auto Japanは2026年9月29日、ミドルサイズSUV「ATTO 3」を大幅に刷新した新型「ATTO 3 EX」を発売しました。価格はRWDモデル437万8,000円、AWDモデル487万3,000円。電池容量74.88kWhのRWDは、ほぼ同じ74.69kWhを積むトヨタbZ4X Z(FWD・550万円)より車両価格で112.2万円安い。ところが国のCEV補助金はATTO 3 EXが15万円、bZ4Xが130万円です。差し引くと実質422.8万円対420万円で、ATTO 3 EXのほうが2.8万円高くなります。
従来型ATTO 3(418万円)からの値上げは19.8万円にとどまり、その対価として電池は16.32kWh増え、航続距離は470kmから620kmへ150km伸びました。クルマとしての進化は大きい一方で、補助金は2026年1〜3月登録分の35万円から、4月以降は15万円に下がっています。
この記事では、ATTO 3 EXの値上げ19.8万円の中身を電池1kWh・航続1kmあたりに分解し、補助金後の実質価格でbZ4Xとの逆転構造を検証します。最後にFP(ファイナンシャルプランナー)の視点から、補助金の大小が保有期間の自由度にどう効くかを整理します。

📌 ATTO 3 EX 437.8万円の中身、従来型比+19.8万円で電池16.32kWh増・航続150km増

車名にEXが付いただけの小改良ではありません。駆動方式がFWDからRWDに変わり、電池は28%増、モーター出力は1.5倍です。それで値上げが19.8万円なら、クルマ単体の値付けとしてはかなり攻めています。
RWD437.8万円・AWD487.3万円、従来型から変わった5つの数字
BYD Auto Japanのプレスリリースによれば、ATTO 3 EXはRWDモデル437万8,000円、AWDモデル487万3,000円の2仕様構成です。2025年4月1日の価格改定以降、従来型ATTO 3は418万円で販売されてきました。RWD同士で比べると値上げは19.8万円、率にして約4.7%です。
その対価として変わった数字は5つあります。ブレードバッテリーの容量は58.56kWhから74.88kWhへ、一充電走行距離(WLTCモード)は470kmから620kmへ伸びました。モーター最高出力は150kWから230kWへ上がり、急速充電の最大受電能力も85kWから100kWに向上しています。そして駆動方式は、前輪駆動(FWD)から後輪駆動(RWD)に改められました。構造面では、電池パックと車体が独立していたCTP(Cell to Pack)から、電池を車体構造の一部として使うBYD独自のCTB(Cell to Body)に切り替わっています。
値上げ19.8万円を分解すると、電池1kWhあたり約1.2万円・航続1kmあたり1,320円
値上げ幅を中身で割ってみます。増えた電池容量は74.88−58.56=16.32kWhですから、電池1kWhあたりの値上げは約1.21万円です。航続距離の伸び150kmで割ると、1kmあたり1,320円になります。
この数字には、出力の1.5倍化、RWD化に合わせて刷新したサスペンション、ADASセンサーの強化(ミリ波レーダー3つから5つへ)、ドライバーモニタリングシステムや幼児置き去り検知システムの新採用も含まれています。電池の増量だけでこの金額に収まっていること自体が、量産規模と電池の内製を持つBYDらしい値付けです。
ただし、従来型の在庫車を選ぶ人にとっては話が少し変わります。従来型も2026年4月以降の補助金は15万円で、実質403万円です。ATTO 3 EXとの実質差は19.8万円のまま縮まりません。日常の移動が片道数十kmに収まり、長距離移動が年に数回という使い方なら、在庫車の値引き次第で従来型を選ぶ合理性は残ります。
RWD230kWとAWD4.0秒、車載温冷庫・95Lフランクまで広がった装備
走行面では、RWDモデルのモーター最高出力が230kWになりました。フロントにデュアルボールジョイント式マクファーソンストラット、リアに5リンク式サスペンションを採用し、高出力化に合わせて足回りも作り直しています。新設定のAWDモデルは前100kW・後230kWの2モーターで、最高出力330kW・最大トルク560N・m、0-100km/h加速は4.0秒です。
装備では、AWDモデルの前席センターコンソールに容量4.5Lの車載温冷庫を備えます。保温は35℃〜50℃、冷蔵は−6℃〜6℃で設定でき、BYD公式サイトはこれを日本初の車載温冷庫とうたっています。さらに、ボンネット下の95Lフロントトランク、前席シートベンチレーション、ステアリングヒーター、50Wワイヤレス充電、フロントと前席ドアの防音ガラスも加わりました。充電前に電池温度を整える充電予熱機能や、家庭の電力環境に合わせてAC充電電流を段階的に設定できる機能も新たに備えます。
欧州では2026年春に「ATTO 3 EVO」の名で先行発売された同系モデル(海外仕様・参考画像)。74.8kWhのブレードバッテリーやRWD230kW・AWD330kWの出力構成は日本のATTO 3 EXと共通ですが、航続距離の測定モードや充電仕様は日本仕様と異なります。

📌 補助金15万円対130万円、電池74kWh級のbZ4X Zと実質価格が逆転する構造

車両価格の差は112.2万円なのに、補助金の差は115万円。補助金の差のほうがわずかに大きいから、実質価格が入れ替わります。RWDでもAWDでも、逆転幅はどちらも2万円台に収まっていました。
車両価格112.2万円安、補助金後は2.8万円高、航続は126km短い
比較の相手に選んだのは、2025年10月の一部改良で電池を大きくしたトヨタbZ4Xです。上位のZグレードの総電力量は74.69kWhで、ATTO 3 EXの74.88kWhとほぼ同じです。価格はZ(FWD)が550万円、Z(4WD)が600万円。ATTO 3 EX RWDとの車両価格差は112.2万円あります。
ここに国のCEV補助金を当てはめます。次世代自動車振興センターが公表する2026年4月1日以降の登録分の交付額は、bZ4X Zが130万円、ATTO 3 EXは15万円です。補助金の差は115万円で、車両価格の差112.2万円をわずかに上回ります。その結果、実質価格はATTO 3 EX RWDが422.8万円、bZ4X Z FWDが420万円となり、ATTO 3 EXが2.8万円高くなります。
しかも航続距離はbZ4X Zの746kmに対してATTO 3 EXは620kmで、126km短い。補助金後の実質1万円あたりの航続距離を出すと、ATTO 3 EXは約1.47km、bZ4X Zは約1.78kmです。電池容量と航続という「EVの基本性能」を価格で割る物差しでは、国の補助金を反映した時点でbZ4X Zが優位に立ちます。AWD同士でも構図は同じで、ATTO 3 EX AWDの実質472.3万円に対し、bZ4X Z 4WDは470万円。こちらも2.3万円の逆転です。
BYDは一律15万円、ATTO 3の補助金は85万円から段階的に縮小
なぜここまで補助金に差がつくのか。CEV補助金の交付額は車両の性能だけでなく、メーカーの取り組みを点数化して決まります。2026年4月からの評価では、200点満点のうち100点が経済安全保障に関わる項目に割り当てられ、電池の国内生産認定や重要鉱物の調達などが重視されるようになりました。次世代自動車振興センターの一覧を見ると、2026年4月1日以降の登録分はATTO 3 EXを含むBYDの全銘柄が一律15万円です。
ATTO 3に限っても、補助金は段階的に縮んできました。BYDの公式案内によれば、2023年の令和4年度補正予算では85万円でした。2026年1〜3月登録分の一覧では35万円、4月以降は15万円です。発売当初からの縮小幅は70万円に達しますが、この間にATTO 3の車両価格は、2025年4月1日の改定で450万円から418万円へ下がり、今回のEXでは437.8万円に上がりました。
補助金15万円の裏側にある自由、4年の処分制限と売却時の考え方
ここで、FP視点の引き算を一つ加えます。CEV補助金を受けて購入した車両には処分制限期間があり、一覧上の期間は4年です。期間内に売却や廃車をすると、原則として補助金の一部返納が求められます。130万円を受け取ったbZ4Xは4年間の保有がほぼ前提になるのに対し、15万円のATTO 3 EXはその縛りが小さいという違いがあります。
3年以内に乗り換える可能性がある人、転勤や家族構成の変化が読めない人にとって、補助金が小さいことは必ずしも損ではありません。逆に4年以上乗ると決めている人なら、bZ4Xの補助金130万円はそのまま実質価格の安さとして効いてきます。同じ実質420万円台でも、保有期間の見通しによって有利な車が入れ替わるわけです。
なお、自動車税や重量税はどちらも電気自動車の扱いで条件がそろうため、この比較で差はほとんど付きません。自治体の独自助成は居住地で有無や金額が変わるので、最終的な実質価格は販売店で見積もりを取って確認するのが確実です。
📌 たかまさはこう見ている

ATTO 3 EXは、クルマとしては従来型より明らかに良くなりました。それでも国産EVより安くならないのは、クルマの出来ではなく、補助金の物差しが変わったからです。価格表と補助金一覧は、必ずセットで読んでください。
BYDが日本に乗用車を投入した2023年、ATTO 3の武器は「補助金を引けば国産EVより手頃」という分かりやすさでした。その前提は2026年4月の補助金制度の見直しで崩れています。今回のEXは、電池を16.32kWh増やして値上げを19.8万円に抑えるという、クルマ単体で見れば非常に強い値付けです。それでも補助金の差115万円は、車両価格で詰められる幅を超えていました。BYDは価格表の上では勝ち、補助金一覧の上で負けている。今回の逆転は、その構図がそのまま数字に出たものだと私は見ています。
では、ATTO 3 EXを選ぶ理由はどこに残るのか。私自身11台を買い替えてきて、価格が並んだときに最後に効くのは「そのクルマでしか得られないもの」でした。ATTO 3 EXの場合、AWDの0-100km/h 4.0秒はbZ4X Z 4WDの5.1秒を上回ります。温冷庫、95Lのフロントトランク、シートベンチレーションも標準で付きます。そして補助金が小さい分、4年の処分制限を気にせず乗り換えの自由を持てることも、見落とされがちな利点です。逆に、航続距離とリセールの実績を重視するなら、実質価格がほぼ同じbZ4X Zのほうが堅実な選択になります。
判断の軸を整理します。4年以上乗る前提で、長距離移動が多い方はbZ4X Z。3年前後で乗り換える可能性があり、加速や装備に価値を感じる方はATTO 3 EX。短距離中心で予算を最優先する方は、値引き次第で従来型ATTO 3の在庫車も候補に入ります。いずれにしても、値札の安さだけで決めると、補助金後の数字で思わぬ逆転に出会います。いまのEV補助金は、クルマの性能と同じ重さで電池の出自を採点しているのです。
🔍 この記事のファクトチェックについて
ヒーロー画像は、BYD Auto Japan株式会社がPR TIMESで配信したプレスリリース『新型「BYD ATTO 3 EX」』(2026年9月29日・https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000253.000043078.html)に掲載された報道用公式画像です。サブ画像は、BYD欧州公式サイト(https://www.byd.com/eu/electric-cars/atto-3-evo)に掲載された欧州仕様「ATTO 3 EVO」の公式画像(海外仕様・参考画像)です。引用は著作権法第32条に基づき、報道目的での適正な範囲内で実施しています。著作権は各社に帰属します。
